fiction | ナノ


夏だからって、なにも砂浜で練習することなんてないのに…。それもこれも、早川先輩が夏と言えば海だーなんて言うから、なんかみんなその気になっちゃったんスよね。笠松先輩もめずらしく乗り気だし。まあ笠松先輩の場合は砂浜で走るのは筋力増進にもなるからっていう理由だからで、それはまあ一理あるっスけど。海はきらいじゃないっス。でも焼けるのはやめてって事務所の人に言われてるから、日焼け対策が面倒なんスよね。しかも、この暑さのせいで、日焼け止めも落ちそうだ


「黄瀬くん、今日やる気ないでしょ」
「えっ」

まさか、マネージャーの名前先輩に気づかれるなんて思ってなかったっス…。いや、やる気ないわけじゃないんスけど、日焼けが気になって練習に身が入らないというか

「砂浜で走るのは確かにきついけど…なにかあった?」
「いや…日焼けが気になるんスよ」
「あーモデルだから焼けちゃだめなのか…。黄瀬くん白いよね。うらやましいわ!」
「照れるっス」

日焼けを気にする俺とは反対に、名前先輩は日焼けなんて気にしてないくらいに肌を出していた。タンクトップに短パンで、まさに夏!って感じ。俺も日焼けとか気にしなかったらいいんスけどね

「名前先輩は日焼け気にしないんスか?」
「気にしてるよ!今日も日焼け止め塗ってるし。でも暑さのほうが勝つっていうか…。だからもう意味ないかな」

名前先輩は俺の肌の白さをうらやましいって言うけど、俺は俺で名前先輩もうらやましい。俺なんて、この暑いのに長袖着てるし。笠松先輩に何度暑苦しいと言われたことか…!モデルもつらいっスね

「でも夏はあんま好きじゃないっス。暑いし焼けるし…太陽なんてまぶしいじゃないっスか」
「まあねー暑いよね。でも夏は夏で、いいこともあるよ」
「いいこと?」
「かき氷食べれるし!」
「食い気っスか」
「いいじゃんー!」

すると名前先輩は俺にスポドリを渡してくれた。暑い分、水分補給もマメに取らないといけない。名前先輩は俺の分を渡すと、自分の分を出してごくごくと喉を鳴らしながらスポドリを飲んでいた。その横顔は汗が太陽に反射して、きらきらと光っていた。汗は流れて喉をつたっていた。名前先輩が濡れた口をぬぐう姿が、すごく色っぽくて見惚れてしまう

「………やっぱ、夏もいいっスね」
「え?」
「なんでもないっス」

2012/07/02
BGMは NICO Touches the Wallsの「夏の大三角形」です
黄瀬くんだとBGMがどはまりします。