fiction | ナノ



カーテンの閉め切った薄暗い部屋で、服の擦れる音が聞こえているだけ。たまに体重のかかったベッドがギシギシと音を立てる。あたしに体重がかからないように、あたしを間に挟んで馬乗りの状態でいる黒子くんの髪が揺れた。黒子くんはあたしの顔を確かめながら、あたしの首に顔をうずめたり、耳にキスをくれたりとする。だから、たまにあたしの視界から消えてしまうみたいで。

「黒子くん、いまにも消えちゃいそうだね」

苦笑いをこぼしながらそう言うと、黒子くんはなんだか切なそうな顔をした。

「…名前さんのほうが、消えちゃいそうです」

黒子くんはあたしの顔を手で包み、じっと目を見つめた。自分がここにいることを証明するかのように、片時も目をそらさずに。親指で頬を撫でるのがくすぐったかったけど、ゆっくりとやさしく撫でるので気持ちよくも感じた。そして黒子くんが瞼を閉じるのを合図に、あたしも自然と瞼を閉じて、暗闇の中で唇の感触を感じた。

キスをしたかと思うと、黒子くんはあたしの背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめた。少しだけ震えている気がした。黒子くんの顔は見えないけど、ぬくもりは確かに感じられる。黒子くんはたしかにここにいると、感じざるをえない。それが妙にうれしくて、あたしは黒子くんを抱きしめ返した。

「どこにも行かないでください」

離してしまったら、今にもどこか消えちゃいそうです。黒子くんのふるえて今にも泣きそうな声を聴いて、あたしはあたまをなでてあげる。消えそうなのは、君の方なのに。あたしは消えたりしないよ、と黒子くんに言うと、彼はさっきより強くあたしを抱きしめた。

2012/06/04