「…だいじょうぶ?」 浜辺にいるなんて一言も言ってないのに、どこで聞いたんだろう。声だけで分かったから体育座りの体制のままあたしは顔を上げなかった。真っ暗な視界の中で唯一聞こえる越前くんの声と、さざ波の音 「なにが」 「あんた」 「……だいじょうぶなわけ、ないじゃん」 「ま、それもそっか」 越前くんはあたしの隣に腰掛ける。そこはきのう、彼が座ったとこと反対側のとこだ。思い出しただけで涙が出てきそう。泣いているのがわからないように、いや、とっくにばれてると思うけど、必死に両腕と両足に頭をうずめた 「そんなに好きだったの?あいつのこと」 「…たりまえじゃん…。好きすぎて、熱出たくらいだもん」 「熱って……重症すぎ」 越前くんは、いつでも冷静だ。今回、あたしの告白がうまくいかないことを全部わかってた。わかった上で止めてもくれた。なのにあたしはそれを無視して、自ら傷ついてしまった。馬鹿な女だって、わかってるよ。だけど、気持ちは伝えないとわかんないじゃん。案の定、彼も、あたしが好意を寄せていたことに気付いてはいなかった 「気持ちが先走りしてただけだった。越前くんの言うとおりだったよ」 あたしはようやく顔を上げた。涙はもう、止まったみたい。朝日に反射する波がまぶしくて、一瞬目を細めた 「振り方も、最後まで優しかった。最後まで大好きだった。あたしの気持ちをちゃんと考えてくれた。迷ってくれただけで、十分だよ。あたし、あの人に恋してよかったって思ってる」 「…………………」 「だけど」 「…………………」 声が震えたのがばれてしまったのか、越前くんはかぶっていた帽子をあたしの頭にかぶせた。泣き声が止むまで、彼はあたしの頭をなでてくれた。涙は、止まらなかった 2012/03/02 |