fiction | ナノ


俺の事は忘れて、なんて、簡単に言えることじゃないのはわかってる。だけど、本当に俺の事を忘れてほしいんだ。涙ぐむ彼女を前に、俺は優しく諭しながら、だけども表情は悲しい顔をしていただろう。

彼女と過ごした時間は、時計の秒針のように早く進んでいって、それでもその一秒一秒が愛おしく充実した時間だった。彼女との時間を、なかったことにしたくない。だけど、君とはここでお別れ。君はこれから俺のいない場所で生きて、俺以外の男の隣に立って、その人を愛してもらわないと。

君はこの世界で生きて。君の幸せが、俺の幸せだから。俺ばっかりにかまけてると、本当の幸せを見逃してしまうよ?だから、お願いだから。死にゆく俺のことなんて、放っておいて、俺以外に幸せにできる奴の傍にいて

俺に好きだと言ってくれて、うれしかったよ。夢かと思った。君が俺の傍にいてくれるだけで、嬉しかったのに、俺に恋心を抱いてくれて、とても嬉しかった。俺を忘れてなんて、嘘。ずっと俺の傍にいてほしい。ずっと俺の事を考えててほしい。ずっと、俺という存在を忘れないでほしい。だけど……それはかなわないから

「俺のことを、忘れて」

君は君だけの幸せを見つけて

2012/02/15
企画「世界で一番優しい嘘つき」さま提出