「ねー」



語尾にハートが付きそうなほどの甘ったるい声。
それは間違いなく私を呼んでいるもので。



「なーに、神威」



言いながら振り返る。すると頭のてっぺんにあほ毛をピンと立てた神威が、いつもの作り笑いを浮かべてベットに座っていた。

ちなみに両手は私に向けて広げられている。



「…その手は何?」
「今そこに立ってる人を抱きしめるんだよ。だからこっち来て」
「神威、ひとついい?抱きしめてそのままベットに倒されるような気がするのは、私の思い違いかな?」
「わあ、なんで分かっちゃったの?もしかしてエスパー?」
「やっぱりか」



何年も一緒にいたんだ。
神威の行動くらい、大体予想つくもんね。



「いいじゃん、一発ぐらい」
「一発ってねぇ、そんなに軽々しく言わないの」
「なんで?地球の女は何も言わなくても勝手に寄ってくるのに、君は一回もやらせてくんない。おかしいと思わない?」
「残念思わないなぁ。生憎、私は地球産じゃないんで」



「けちー」と言いながら口を尖らせて私を見つめる神威。それに私は神威に負けないくらいの作り笑いを浮かべてみせ、団長室──神威の部屋から出て行こうとドアノブに手をかける。

そこでふと目に入ったのは、ドアのすぐ真横にかけられたカレンダー。
ぐるぐると大きく赤で印をつけられた、6月1日。


そういえば一ヶ月くらい前にここで集まりがあったとき、阿伏兎がぐるぐるしてたような…。ん、待てよ。6月1日って確か…神威の誕生日?え、でもこのカレンダー、確か窓の横にかけられてたような…。まさか移動させた?

くるりと踵を返すと、やっぱりニッコリ顔の神威。その顔は何か企んでいるようにも見えた。間違いない、確信犯だ。



「ね、いいでしょ?俺、何年も待ったんだ。もう限界だよ」



そう言って、一度下がった手をもう一度私に向けて上げる神威。私は考えた。

私はどうして神威を拒むのだろうと。嫌いなわけじゃない。むしろ好きの部類に入るはずだ。なのに私は、どうして神威を受け入れない?
…なんて、そんなのずっと前から分かってた。一度神威を受け入れてしまったら、神威は用済みだと私を捨ててしまうような気がした。ただそれだけの理由。つまるところ私は神威が好きなのだ。だから捨てられたくなくて。捨てられるのを恐れて。



「…神威は、どうして私なんかとやりたがるの?」



おそるおそる聞いてみた。その返事次第で、私のこれからとる行動が大きく変わってしまうだろうと思いながら。



「決まってるでしょ。好きだからだよ」



神威が迷いのない言葉で言い切ったとき、私の中の何かが吹っ切れた音がした。

やれやれと息を吐きながら神威へと歩み寄り、神威のすぐ横に腰をかける。



「あれ、どうしちゃったの。ついにやる気になった?」
「神威」



距離が近い。肩同士はぴったりとくっつき、顔だって座高の差がなければくっ付いているところだ。



「さっきの気持ちは…本当?」



確認を取るように、わざとゆっくり言ってみる。すると神威はまた、何の躊躇いもなく言ったんだ。



「当たり前でしょ。俺は嘘を吐かない主義だって、君が一番よく知ってるはずだけど」



それが当たり前のように言うもんだから、私は疑った。他の女の子にも、平気で同じ事を言うのではないかと。
やっぱり神威と体を重ねるのは止めよう。そう思いなおし立ち上がろうとした、まさにその時だった。



「じゃあ、いただきます」



手首を物凄い怪力でぐいと引っ張られ、半ば叩きつけられるようにベットに倒された。反論する間もなく、神威が覆いかぶさってくる。ようやく私の思考回路が状況を理解できたときは既に、神威の唇が吸い付くように私のそれに触れていた。

それがあまりにも気持ちよく、私は思わず目を閉じてそれを受け入れてしまう。



どのくらいか時間が経ち、神威がゆっくりと離れていく。囁くように呼ばれた名前に、体が底から震え上がった。
私が何も言わずに目を閉じたままでいると、神威の手がそっと太ももに触れた。そこからなぞるように、その手は徐々に上がってくる。そこでハッと我に返った私は、「神威!」と言いながら慌ててその手を静止する。



「分かってると思うけど、ここまで来てやめるとか言わないでよ?俺もう無理だから、いろいろと」
「……神威」
「なに?早く言って」


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そう言ってやると、神威は驚いたように目を開いた。きっと私のことだから、これ以上はやらせないとか言われると思っていたんだろう。それにしても神威の目、透き通っててやっぱり綺麗だなぁ。いつも開いてればいいのに。



「……お金払えばやらせてくれるの?」
「うん」
「ふうん…キス、気持ちよかったんだ」
「えっ、なっ、ちが…!」
「好きな子の初めてをもらえるなら、いくらでも払うよ」



──────
○凵」様に提出。
素敵な企画に参加させてくださり
ありがとうございました(*´∀`*)!

Happy Birthday神威!
2010.06.01



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