「今日はいい天気だね」

「そうだな!名前も機嫌いいのはそれのおかげなのかってば?」

「まあね!」

一つも雲も見えない、青空。気の遠くなるほど高く群青の空がある。仰げば気分がいい。木の葉にこんなに晴れ渡った天気がやってきたのは珍しいしそりゃあ気分もよくなる。ナルトに機嫌がいいと言われたけど理由はもう一つある。

「お!サスケ〜遅いってばよ」

「来る前にカカシに会ったら引き留められてな」

ぼんやりと人影が見える、サスケだ。ナルトが勢いよく手を振る。相変わらず、涼しげな顔をしている。

「じゃ、サスケも揃ったことだし任務行くか!」

「ああ」

「ここにサクラちゃんもいれば第七班揃ったのに残念だってば!」

「…なによー私だけじゃ不満だって言いたいの?」

「そ、そういう意味じゃないってばよ!名前がいてうれしいってばよー!」

「ばかナルト!置いてくよ!」

…胸が痛い。サクラの名前なんて出さないでよ、今日はせっかく三人での久しぶりの任務なのに。ナルトはきっと私とサスケの間に起きた出来事なんて知らないはずだから、悪気の一つもないただ口から出た発言なんだろうけど。私がサスケに告白して玉砕したことなんて、誰も、知りえないこと。一月前、任務行く直前のサスケに何を思ったか私は告白してしまった。告白と言っていいのかわからないけど、「サスケのことが好き」と。今思えば、どうしてそこで血迷って言ってしまったのかわからない。任務終わり特有の、気分の高揚が問題だった。

下忍のころからサクラがサスケのことを好きなことは無論承知、そして恋人というものになったのも知っている。それでも少しの儚い希望を持っていた。…まあでもその後の結果はお察しの通りで、任務帰りのサスケと顔をあわせるのは気まずくて避けていた。いや、あの涼しげな顔が見たくて屋根上から密かに見たりはしたけど。

こうしてナルトと三人で任務を任されたのも偶然じゃないと思ったし(きっと絶望でひょろひょろになっていた私を綱手様が見かねたのかもしれない)せっかくの任務だもの。下忍時代の気持ちに戻って楽しみたい!


「あーこうやってると下忍のころ思い出すよなー」

「ナルトが失敗ばかりしてたとき?」

「俺の失敗話なんかいいってばよ!波の国でサクラちゃんと名前はチャクラコントロール上手いのに俺とサスケってば全然ダメで…名前にスパルタ指導されたの覚えてるってば!」

「…そういえば、そんなこともあったな」

「スパルタ指導なんて、ナルトとサスケがてんでダメだったからちょっと教えただけなのに盛りすぎ!二人とも飲み込んだら早いからそのあとはすごかったけどねー」

「やっぱしオレってばできる男だったんだよな!昔っから!」

「フン。昔からウスラトンカチのは変わんないがな」

「サスケ〜〜!!」

下忍時代の話に花を咲かせているとやっぱりサスケとナルトのいがみ合いは変わらないんだなあと微笑ましくなる。いつだって二人の関係は変わらない、大蛇丸の所へサスケがいったって二人はずっと、ずっと、永遠の友達でライバルなんだ。サスケと確かな誰にも変えることのできない埋めることのできない関係を築けたナルトに羨ましさを感じる。ナルトとサスケの関係は、唯一無二なんだから。


「敵のアジト見えたってばよ!三手に別れる!」

「気を付けろよ」

「また後で!」

敵のアジトがうっすらと見えてきた。三手に別れてアジトを囲んで敵を殲滅、きっとこのメンバーなら無事に終わるだろう。………なんて思っていたのに


「……やばいかも、血…」

ぽたぽたと胸から血が滴る。攻撃を防ぐ直前に足をとられてしまい無様に命中した。そのまま囲まれて流石に危ないと思って分身で身を隠したけど見つかるのも時間の問題。チャクラで傷口を塞ごうとしても手が震えてうまくできない。


「このまま死ぬのかな…?」
「よりによってこのメンバーのときに、なさけないかも、」

呼吸がうまくできない、チャクラをコントロールするのがこんなに難しいなんて思わなかった。怪我のせいもあるかもしれないけど、それより私の心の底にある意識がそうさせてるのかもしれない。サスケに振られた今、これから幸せになるサクラとサスケを見ていることなんて私にはできない。到底、無理、心底おかしくなる。下忍中忍と過ごしてきてサクラを憎いと思えず、つらい感情を抱えたまま生きてゆく。それなら、いっそ、ここで、楽になりたい。


「名前!」

「!サスケ」

ぐったりしてきた私の目の前に現れたのは、サスケ
人がすべてを諦めようと決断したときに、どうしてあなたって人は…こうして私の目の前にタイミングよく現れるの?おねがい、やめてよ、私の心を揺さぶらないでよ


「やられたのか?ひどい血だ、見せてみろ」

「いいの、大丈夫だから…」

「大丈夫なわけないだろう!応急処置して里に戻るぞ、サクラに診せよう」

「!例えサクラに診せて治る怪我だとしても…私はサクラに、治療なんか頼まないわ」

「名前」

サスケって全く乙女心わからないのね、自虐的に笑えばサスケは目を逸らす。死んでもサクラに治療を頼まない、頼むぐらいならば今ここで命を落としたほうがマシだよ。よくわからないけど、サスケの恋人に治療されるのは癪なの、わかる?そう問えば苦しそうな顔をする。


「サスケのこと、好きだよ」

「オレは…」

「うん」

「オレは、名前をここの世界で選べない」

「…うん」

はっきりとした拒絶に涙が溢れる、わかっていることだとしてもこんな死ぬ直前に言われるのはつらい。言葉をつづけようとするサスケに、これ以上傷つけないでと懇願したい。

「だから生まれ変わったらオレは名前を選ぶ。この世で選ぶことのできなかったお前の手を次はとらせてくれないか?」

「!サス、ケ…」

それは残酷な言葉だった、それと同時に私を光に導いてくれる言葉だった。今回は結ばれない二人だったとしてもきっと次があるよね。次、生まれ変わったときは私の手をとってくれる…絶望的に100回生まれ変わりを繰り返しても101回目にはあなたと幸せになれるということ。そこには絶対的な運命なんてないとしても、現世の記憶がないとしてもきっと私とサスケは出会い結ばれる。そんな話、今だけは信じてもいいのかな?


「来世のわたしたちに期待してもいい…?」

「…ああ、だから先に行ってオレのことを待っててくれ」

「うん、私がしわしわのおばあちゃんになってても、私を選んでね」

「勿論だ、名前。少しのお別れだ」

「走ってきてね…まってる…サスケ、次会うときはきっと幸せだよ…」

サスケの手が私の瞼に重ねられゆっくりと目が閉じられる。私は幸せになるために生まれ変わる、私を包むのは死ではない。もう一度生まれ変わるための穏やかな眠り。愛のない世界でサスケを愛したこと決して後悔しないよ、だからお願いだよ、はやく来てね。私がおばあちゃんであなたは赤ちゃんだとしても、決してあなたの手を離したりしないから。







苗字名前、22歳ОL、年歴イコール彼氏いない歴、マンションに一人暮らし。この世に生をうけて22年まだ私は探し続けてる。あの人より先に死んだ私はやっぱり早く生まれて未だ出会っていない。小中高と学校の名簿は漁った、該当なし。職場でも取引先の名簿はチェック済み、該当なし。最早絶望的かと思ってきたこの頃。

「本当におばあちゃんになる頃に迎えになんてこないでほしいよ…」

ハア、溜息をつく。おばあちゃんになっても会えたならそれは嬉しいけど、あっちがピチピチで私がシワシワとなれば少しははばかれるもんだ。頼むならこの年で出会いたい……休日平日構わずカフェや娯楽場へ足を運んで、あの整った顔を探し続ける。いまだってファーストフード店で探し中だ。

「やっぱりそう簡単には見つからないのかな」

学生の団体が入ってきたところで段々絶望的になってきた思考をやめるべく、お盆を持ち席を立ちあがる。

「あ、すみません…」

学生の一人と肩がぶつかった、高校生かな?それにしては華奢な肩。私とそんなに体格変わらないんじゃないかな、思いつつ顔をのぞく。

「…よう」

「!?サ、ササ、サスケ!?」

「久しぶりだな。…もしかして成人してるのか?」

「う、うん、サスケは高校生?」

「高2だ、そんなに年が離れてなくて安心したぜ」

肩のぶつかった男子高校生は、…あのサスケだった。私がこの22年間思い続けた、…いや生前もあわせたら何年になるのかわからないぐらい思い焦がれた。絶望的な状況でこうして会えるなんて思いもしなかった。下忍のころのサスケみたいに幼さがのこった顔は相変わらず整ってる、うう、イケメン。


「サスケ、知り合いかってばよ?……んん、もしかして…」

「ナルト!?」

「名前か!?わ〜〜名前に会えるなんて思ってなかったてばよ!!」

「私も!」

サスケの後ろからひょっこり顔を出した少年、間違いなくナルトだった。感動の再開に抱き合う、ナルトには何も言えずまま死んでしまったこと悔んだからこうしてあえてよかった。


「おい、ウスラトンカチ。名前に触るんじゃねぇ」

「あ!?なんだよ、サスケ!お前には関係ねーだろ!」

「関係ある。名前はオレの女だからな」

「は、え!?いつからそういう関係なったんだよ!」

ぎゅっとサスケに引き寄せられ肩を抱きしめられる。私より少し身長が高い、真白な腕、前と変わらない匂いが鼻を掠めてサスケはサスケなんだと安心させられる。


「名前、約束まだ無効じゃないだろ?」

「勿論だよ」

身体をくるっとサスケのほうに向きなおされる、サスケの端正な顔が目の前にある。


「名前、オレはお前を長い間待たせた。こんなオレでもいいなら付き合ってくれ。お前と一生を添い遂げたい」

「…うん!よろしくお願いします!」

「ありがとう…お前を幸せにする」

サスケの方に引き寄せられ抱きしめられる。長いこと待っていた幸せに涙が溢れる。

「まあ、サスケに言いたいことはたくさんあるけど、おめでとうってばよ!!」

「きゃーおめでとう!」「めでてーなー」

はっとした時には周りのたくさんの人たちがこちらを見ていて、拍手が巻き起こった。店員や客、そしてナルト、それにシカマルやキバたちもいた。あまりの恥ずかしさに逃げるようにサスケの胸に顔を埋める。そういえばここお店の中だった!!恥ずかしすぎる……


「ッしゃーー!サスケと名前の祝福会開くぞー!今日は朝まで飲むってばよーー!」

「って、ナルト。オレたちまだ未成年だろーが」

今日くらいいいんだってば!オレたちとっくに成人してたことあるしな!ナルトとキバが拳を交わす、例え前成人しててもこの世ではまだ未成年だし高校生…一体どこでお酒を買おうとしてるのか…ナルトとキバは死んでもやっぱりバカだった。


「…長い間待たせて悪かった」

「いいの、こうして会えたんだから」

「…ああ、そうだな」

最悪生まれ変わることなんてできなかったかもしれないし、サスケとの記憶なんてなかったかもしれない。それを考えれば今はとっても幸せなんだ。22年間待ちぼうけをくらったけど、これからあとの60年、70年は倍以上の幸せと共に暮らす。


「サスケ、私とってもしあわせだよ!」

約束を反故にすることなんか簡単なのにこうして堅く守ってくれたこと本当にありがとう。心からあなたが大好き、サスケなしでは実現し得ない幸せな夢見てた未来をあなたが現実にしてくれたんだ。本当に、ありがとう