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「うわ、何あれ」


見てしまった光景に気分が急降下する。
部活後の疲れが割り増しだ。


「…ねぇ、宮地知ってた?」

「なにを」

「高尾、彼女いたんだね」




そう、何を隠そうこの私苗字名前は、同じ部の2つ下の後輩、高尾和成に絶賛片想い中なのでした。

そして私が見てしまったもの、それは、同じく私の後輩マネージャーの子と高尾が、仲良く下校している姿だったわけで。



「宮地」

「…なんだよ」

「私、パフェ食べたいな」

「1人で行ってこい」

「ひど!!」




あんな形で失恋を迎えてしまっても、日常は変わらない。
部活は毎日あって、だから毎日毎日、高尾と顔を合わせてしまう。

そして何より1番問題なのは、後輩マネへの接し方が分からない。
高尾の彼女なんだ、と思うとどす黒い感情が湧いてくるのに、その子はすごくいい子で、気が利いていつも笑顔でおしとやか。
そんな子に冷たく当たることなどできず、かといって優しくもできず。
もう梅雨は明けたというのに、私の心だけがいつまでもじめじめしていた。





「うわ、雨」

「高尾お疲れー……ってうわぁ、私傘持ってきてないよどうしよう」

部活終わり、制服に着替えて体育館を出ようとすると高尾とばったり遭遇。
一応声をかける。かけないと不自然だもんね。
そして外を見ると、梅雨明けたんだよね?

普通に雨、降ってますけど。


「高尾、傘持ってる?」

「じゃーん!!おーりーたーたーみーがーさー!」

「ドラえもんありがとう」

「もうちょっと反応して!!」

「とにかく……部活後にこの雨のなか私は帰りたくない。」

「きれいにスルーあざす」

「で、だよ。高尾、悪いんだけどさ、その傘さして近くのコンビニまで走って、ビニール傘一本買ってきてくれないかなぁ」

「ええ!?いやっすよーメンドイ」

「お金二倍払う」

「んー……てかそんなことしないで、先輩、俺の傘入ってけばいいんすよ」

「え、でも高尾はどうするの」

「ぶはっ、俺も入ってくに決まってるじゃないすかー!」

「…え、でもそれじゃあ、」

「相合い傘!きゃーっ」


でもでも、高尾には彼女がいるのに。
彼女じゃない女を、しかも自分に気がある女を同じ傘にいれちゃダメでしょう。
今日は幸か不幸かそのマネージャーは休みだから、相合い傘なんかしているところを見られることはないわけだけど……

どう、しようかな。
私、頭ではわかっていてもやっぱり好きだから、せめて今日くらい独占してもいいよねって、独占したいなって思っちゃってる。

どうしよう







「…わりーけど」

「きゃっ」

「こいつは俺が傘いれてくからいーわ」


葛藤している最中、後ろから腕を引かれた。
誰かの胸のなかに背をあずけるかたちだ。

…ああ私、この広い胸を知ってる。



「…宮地」

「帰るぞ、名前」

「…うん。」

こっちも見ずに靴を履き、傘を広げる宮地の背中が何でだかすごく、いとおしく思えた。


「高尾」

「はい」

「ありがとう。でも今日は、宮地の傘にいれてもらうね。
じゃ、お疲れ」

「お疲れサンでーす」






「バカ」

「いった!何すんのー!叩かないでよ」

「今日は、とかいらねぇから」

「はぁ?」

「これからは、って言えよそこは」

「……あぁ、あれ」



“ありがとう。でも今日は、宮地の傘にいれてもらうね。”



「ふふ、」

「なに笑ってんだよ」

「いや、宮地」

「なに」


高尾のことが好き。
でも、彼女の存在を知って諦めてしまうような恋だった。





「あんた、愛しいね」

「はぁ!?」



予定とはだいぶ、180度真逆な方向に進んでいるけれど、この気持ちは前よりずっと大事にできそうだと、思った。



予定と違うけど
案外しあわせです