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桜が咲く季節
この時期はどうも切ない気持ちになる


「名前ちゃ〜ん、お酒飲まな〜い?」

『あ、いえ私は。』

「おい近藤さん、なに未成年に酒進めてんだ。」

「あ〜そうだった、がははは。」



ゴリラが大声で笑ってる。
私は顔を引きつらせながら顔を真っ赤にして全裸で踊る近藤さんを見た。


今、私たちは真選組屯所内でお花見をしている。
といっても、昼間から始めたお花見は夜まで続き、ほとんどの隊士たちはそこらじゅうで眠ちゃっているんだけど。


『てゆうか、屯所内とはいっても全裸はちょっと.....。』

「まぁ、その、気にすんな。」

『女の子に気にすんなって、無理があるんじゃ無いですか、副長さん?』

「うるせぇこういう時ばっか副長なんて呼ぶんじゃねぇよ。」

『どうにかして下さいあのゴリラ。』

「............................。」



土方さんはフッと違う方向を向いて目をそらす。


『ふっ。』


そんな土方さんに私が小さく笑うと、突然後ろから抱きしめられた。



『わわっ。』


「なに名前と仲良さそうに話してんでさぁ、土方。さっさとそこ退きやがれ。」



その主は、沖田総悟だった。

真選組一番隊隊長で、私の彼氏さん。


総悟は私の隣にいた土方さんを蹴っ飛ばして無理やり隣に座った。


『総悟!どーしたの?』

「男に酌されても不味くてねィ。酌してくだせェ。」

『もー、仕方ないなぁ。未成年なんだからほどほどにね?』

「あぁ。」


トポトポとお酒が注がれていく。

注がれたお酒には、ぼんやりと満月が浮かび上がっていた。


そんな落ち着いた2人の雰囲気に、起きていた他の隊士がみな惚れ惚れする。


そこに大きな雷が落ちた。

言わずもがな土方だ。


「おい総悟ォ。てめー何しやがんだァァァァ!!」


「あ、土方さん。」
『あ、土方さん。』



「あ、土方さん。じゃねぇよォォォォォォ!!!ふざけんな!!!!」


近藤さん同様顔を真っ赤にして怒鳴る土方さんは、身体中から桜がヒラヒラと落ちていた。


大方さっき総悟に転がされて、地面に落ちていた桜がつきまくったのだろう。



「静かにしてくだせェ、迷惑ですぜィ。特に俺に。」


「てめーが最初に俺に迷惑かけたんだろォォ!」


『今の土方さんの方が迷惑ですよ?』


「止めて、ちょっと真顔で言うの止めて。グサッとくるから!!」


どんどんヒートアップしていく私たちに歯止めをかけたのは、やっぱり局長の近藤さんだった。


「名前ちゃんも総悟もトシも、いい加減にしなさい!」


『こ、近藤さ、』


一瞬ビクッとなって声のする方を見ると、全裸に頭にブリーフを履いている近藤さん.....ゴリラがいた。

3人ともピタッと動きが止まる。




「「『なんでそーーなるのっ?』」」






「え!何がおかしいの?変なところある??」


ブリーフで前が見えないのか、頭をフルフルと振りながら聞く近藤さん。

そんな姿を見て思わず私は耐えられず大笑いする。


『ぷっ、ぷはははははは!!!な、何それェェ!!やばいぃあっははは!!』


「おい名前笑いすぎだ!つか近藤さんも、その格好やめろ!」


「そうですゼィ。気持ち悪いでさァ。



ってさっき土方が。」


「え??俺のことキモいって?勲のどこが気持ち悪いの??ひどいよトシぃ!」


今度は大声で泣いている。

本当に忙しいお人だ。


ひとしきり笑いきると、周りの隊士たちも笑っているのが分かった。


『ふふ。』


本当に近藤さんが慕われているのを感じる。


「名前。」

『総悟....。』

私の名前を呼んだのは総悟。


土方さんと近藤さんは、まだ騒いでいた。

私の隣に座ると、またさっきのようにお酒を注いであげる。


「どうでしたかィ?今日の花見。」

『うん、すっごく楽しい。』

「そうですか。よかったねィ。」



『..................うん。』




やっぱり、この時期はどうも切ない気持ちになる。





こうやって、真選組みんなではしゃいで、騒いで、ワイワイ笑っていられるのは、ずっと続くのだろうか。



こうやって、みんなで同じ時を過ごせるのは何時までなんだろうか。

そんな事を考えては不意に怖くなる。


胸がきゅうっとして、泣きたくなる。


誰か、誰か....。


そんな時、頬がギュッとつままれた。



『はに、ひょうご。』


意識がすっと戻るとすぐ目の前に総悟がいた。

真剣な目に見つめられドキッとする。

瞳に映っているのは私だけ。



「なに泣きそうな顔してんでさぁ。」


『そ、ご。』



総悟は、頬をつまんでいた手を離し、そっと私の目尻に触れる。


『んっ。』


1度目を瞑る。
そして目をもう一度開くと、優しく微笑みながら私を見てくれた。


その顔に、手の温もりに。


私は愛おしさがこみ上げきた。


この人は、守ってくれる。


という安心感。




やっぱり、私を悲しみから引き上げてくれるのは総悟なんだね...........。





今度は私がそっと総悟を抱きしめる。



『何にもない。ただ、幸せだなって思って。』


「幸せすぎて泣いたんですかィ?」


『うん、そーなの! ね、総悟。



また来年もお花見、みんなでしようね。』



「ああ、もちろん、来年も、再来年も、そのまた次も。何時までも。」


『うん、約束だよ。


大好き。』


「俺も、愛してやす。」


桜咲き乱れる春の夜のもと。
そっと触れる唇に私はそっと誓った。



ずっと、ずっと、総悟のそばにいようと。



ゆるやかに安らかに、
どうかそうして何時までも