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「もうお前とは会わない」
「…わかった」
付き合ってるのか付き合ってないのかよく分からない関係だった。
たまに顔を見せに来て何日か過ごすと姿を消してしまう。
晋助が贔屓にしている料亭のバイトだった私と彼の関係はいつまでも曖昧だった。
晋助に別れを告げられても私の日常に大きな変化はない。
どこかに一緒に行ったこともないから町を歩いていても思い出などなかった。
だから晋助ともとうとう終わったのかと他人事のように思っていた。
いつものように仕事帰りにスーパーに寄る。
食材をカゴに入れお酒を買おうとして手を止める。
もう晋助は来ないのだからお酒がダメな私が買う必要はなかった。
無意識ってなんだか嫌だなと少しだけ切なくなった。
家に帰って電気も点けず座り込んだ。
どうして今さら切ない気持ちになっているんだろう。
クローゼットの中の晋助の着物、台所にある食器やグラス。
思い出なんかないと思っていたけどこんなにもあったのだ。
帰りが遅いと知らせもよこさず家にいた晋助。
本当にいつも勝手で言葉が足りなくて。
あの時別れたくないと言えば良かったのだろうか。
そんな未練がましい女は嫌いなんだろうな。
いつまでも曖昧で不確かな関係だった。
愛を囁かれたことなんてなかった。
それでも愛していた。
愛していたから、きっと。
今さらこんなこと思ったって意味がないんだろうけど。
無性にあなたの声が聞きたい
っていうのはそういうことだよ