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私は、片思いをしている。

その人は、他の人からしたら別に何てことのない、けれども私にとっては特別な、少し背の高い男の子だ。
先生に怒られない程度に制服を着崩した彼は、暗い茶色に染めた髪を揺らし、のんびりと廊下を歩いている。

私は、そんな彼をばれないように見つめながら、胸の高鳴りを、感じながら、そっと息を吐いた。

「バレバレでさァ。」

近くから聞こえた声に驚き、勢いよく振り向くと、そこにはクラスメイトの中でも仲が良い部類に入る、沖田総悟がいた。

「な、何の話?」

「聞こえなかったんですかィ?バレバレだっつってんでさァ。お前が見過ぎて、あの野郎に穴が開かねェか心配でしょうがなかったぜィ。」

見られていたのか、と思い、途端に恥ずかしくなった。しかも沖田なんて応援してくれるような奴じゃないし、むしろネタにされるのが落ちだ。最悪。

「…別に沖田には関係ないじゃん。ほっといて。」

「まーまー、そう言わずに。話くらい聞いてやってもいいぜィ。」

面白そうだから聞きたいだけじゃないか、と思ったが、男の味方ができるなら、とても心強い。
そう思って、沖田に洗いざらい話した。

その人とどうして知り合ったのか、どんな人なのか、どこが好きなのか、そしてこの恋が、今どんな状況にあるのか。

「…へえ、青春ですねィ。」

「なに、結局他人事じゃん、沖田の馬鹿。…ああ、もう本当に好きだなあ。」

「俺の事ですかィ?」

そんなわけない、と言って沖田の肩を軽く殴る。

「まあ聞いてくれてありがとう、これからも相談するかも。そしたら今度はちゃんと聞いてよ!」

「嫌でさァ。」

「何でよひどい。とりあえず下駄箱行かない?途中まで一緒に帰ろ。」

そう言うと沖田は無言で着いてきた。いつもなら無駄口ばっかりなのに、珍しく。
結局よくわからないまま、帰り道も沖田は無言を貫いたままだった。

「ねえ、私の家あっちだから、ここで。具合悪いのかわかんないけど元気出して。じゃあね。」

そう言うと、それまで俯き気味に歩いていた沖田が、急に顔を上げた。
私が驚いて動けないでいると、沖田が話し始めた。

「悪ィ。あいつ彼女いる。」

一瞬、何のことかわからなかった、が、すぐに理解した。あいつって言うのが誰なのか、そして、それは私の失恋を意味するということも。
いたたまれなくなって、沖田に言葉を返した。

「何だ、早く言ってくれれば良かったのに、本当に沖田は、意地悪だなあ。」

そう言うと、沖田らしくない真面目な顔で、ごめん、とだけ言った。
それを見て、ああ本当なんだと実感して、不意に泣きたくなった。
沖田に泣くところは見られたくないな、と思って、ごめん、と言いその場から逃げようとしたが、それは叶わなかった。

「待ちなせェ。」

「無理、離して。馬鹿みたい。」

「言わなかったことは謝りまさァ。だがこれだけは聞いてくだせェ。」

薄暗くなった細い路地に、沖田の声が響く。

「こんな時に言いたくはなかったんですけどねィ。名前のことがずっと好きだった。あいつの話も聞きたくねェくらいだが、お前があいつのことをずっと見ていたことも前から知ってる。あいつのことをすぐ忘れろなんて言やァしません。…だが、少しずつ俺の事も見てくれやしませんかィ。」

そう捲し立てた、沖田の急な告白に、何て返したら良いのかわからなかった。沖田が私を好きだなんて。
私が驚いて動けないでいることを悟ったのか、沖田は私の手を離した。

「まあそういうことなんで、考えておいてくだせェよ。」

そう言ってそっぽを向き、赤みの残る耳が見えたかと思ったら、沖田は走って、行ってしまった。



あいつは冷酷無比に私の
心臓をわしづかみにしていった