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「いやだから!私じゃないんですって。沖田さんがやったんですよ!」
「てめえの部屋から出てきたっつってんだろーが!!白々しい嘘ついてんじゃねえぞクソアマが」

マヨネーズのストックが全て無くなっていたらしい。そんなことするのは沖田さんくらいなものだと私ですら分かるのに、マヨネーズのことになると"真選組の頭脳"とも言われるお方でも冷静さを失うらしく私は今、瞳孔をこれでもかとかっぴらいている副長に正座をさせられている。

「マヨネーズ買ってこいよ、オラ。今すぐ全て元どおり買ってこいよ。キュー○ーのしか認めねえからな俺は」

いくら違うと言ってもこの人には伝わらないらしく、土砂降りの中買ってこいと凄まれた。もしも本当に私がマヨネーズのストックを無きモノと変えたのならば、空の容器を自室にぶちまけるわけがない。馬鹿だけどそんなすぐバレるようなことはしないのに。

「風邪でも引いたらどうするんですか!!責任取ってくれるんですか?いいんですか?私がいないと一番隊の報告書は上がりませんからね!!」
「馬鹿は風邪引かねえって言うだろうが。なんの心配もいらねえよ。つか一番隊からまともな報告書が上がった試しもねえよ」

早く行けよ、と睨まれた。だから本当に私じゃないのに。脳裏に沖田さんのどす黒い笑みが浮かんだ。あの野郎、いつもそうやって私に怒られる役を押し付けやがって今に見てろよ!!なんて思うがあのサディスティク星からやってきたであろう人に楯突く勇気は持ってないので今日も身代わりに怒られるんだけど。あーあちくしょう。

「早くしねえとてめえの非番全部取り消しだかんな」
「横暴にもほどがあると思うのですけど!!」
「知るか!!台風が近づいてんだよ、ストック切らしてたら心配で仕事も手に付かねえだろーが」
「台風が近づいてるのに可愛い部下をパシッたら心配で仕事なんて進みませんよ、畜生!!」
「あーだこーだうるせえぞ、いいから買ってこい。マヨネーズ返せ」
「痛い!すぐ殴る!」

ギロリと睨まれ、これ以上歯向かえば次は拳なんかじゃ済まなそうだと判断した。賢明な判断だと思う。素直に立ち上がれば「煙草もよろしく」と言われた。

土砂降りの中、一番近くのコンビニへと向かう。非番なのに!今日は一日中部屋でゴロゴロしようと思ってたのに!雨の中見回りに行かなくてよかったなぁ、なんて原田さんと話してたのに!!
傘をさしていても靴は濡れるし、段々横殴りになってきて隊服まで濡れてしまう。あーもうこれ傘要らないんじゃない?必要ないんじゃない?

お目当てのものを買い占めコンビニを出れば、雨は行きよりも強くなっていた。傘なんかじゃ凌げそうにない。
もういいや、さっさと戻ってお風呂に入ろう。
意味のない傘をさす気になれず、そのまま屯所へと向かった。雨を吸った隊服は重くなる。

「土方さーん、買ってきましたよー」

ビチャビチャのまま、副長室へと入ってやった。畳が濡れて染みが出来ているけどこれは小さな反抗だ。免罪で殴られた上にパシられたんだ、これくらいの小さな反抗は許してもらいたい。

「おーそこに置いと……なんでンなに濡れてんだよ馬鹿。風邪引くだろーが」

振り向いた土方さんは溜息を吐いた。だって傘の意味なかったんですもん。それと濡れたまま副長室にきたのは嫌がらせです、畳が濡れたなんてざまあみろ。

「お風呂入るんでいいですよ。あ、これマヨネーズと煙草です。領収書は土方さんの名前で切ってあります」
「なんで俺の名前なんだよ。マヨネーズはてめえのせいだろうが」

袋を渡す。まだ暖かい季節に分類されるとはいえ、ここまでずぶ濡れだと少し肌寒いらしい。このままでは本当に風邪を引いてしまう気がして大浴場へ向かおうとすれば盛大にくしゃみが出た。

「ほらな馬鹿、風邪引くっつったろーが」

パサリとかけられたタオル。
そのままわしゃわしゃと髪の毛を拭かれた。

「うっわ、畳もびしょ濡れじゃねえか」

私の頭を拭きながら土方さんがぼやく。
まさか土方さんが畳よりも私のくしゃみを気にかけてくれるとは思わなかった。元はと言えば土方さんがパシッたせいだけど、不意に魅せられた優しさに鼓動が早くなった。

「わっ、じっ自分で拭けますからっ」

なんだかこそばゆくて、勢いよくタオルを引っ張れば土方さんは「おっ、わっ、てめえっ」とよろけて私の方へ体重をかけた。
それが抱きつかれたような、そんな感じで……

「何すんだてめえは!拭いてやってんだから大人しくしてろよ、危ねえな」

冷え切った私の腕に触れた土方さんの手は暖かかった。整った顔が目の前にあって、早くなっていた鼓動がもっともっと早くなる。

「あ?何見てんだ?」
「みっ、見てませんけど?全然見てませんけど?!」

熱でもあんのか?と額をくっつけてくるから、心臓はオーバーヒートした。

「熱はねえな……っておい、大丈夫か?真っ赤だぞ!!」

こんな濡れてっから風邪引いたんじゃねえの?と言い出したから頭突きをかましてやった。全くこの人は、乙女心が少しもわかっていない。
何しやがるクソガキっと怒鳴る土方さんから逃げるように大浴場へと向かった。ドクンドクンと脈打つ心臓が煩い。

でもこれは走ったからであって、土方さんが髪の毛を拭いてくれたからだとか、おでことおでこをくっつけてきたからだとか土方さんにときめいてるだとかそういうのじゃない、絶対に違う。
私が土方さんにときめいてるだなんて、そんなの違うに決まってるのに顔に集まった熱は引かなかった。



溶け合う温度は
愛の鼓動を刻み始める