桜が散り始めている4月下旬に差し掛かった頃のこと。移動教室の途中、「俺、授業サボるね。」と名前に手を振る天童。
「どこ行くの?」と一緒にいた友人が聞けば彼は振り返って「ちょっと寝れるところ探すー。」と抑揚のある声で答えた。

寝れるところってだからどこよ、と呟く友人。黙ってその様子を見つめていた名前に、友人は「放っておこう。」と言って移動先の教室へ急いだ。

向かっている途中、名前は廊下に落ちている桜の花びらを見てから外を見る。学校の周りに桜の木が並んでおり、ピンク色の鮮やかな色を目にすれば心ごとその色に染まれそうな気がした。

「…綺麗…。」
「名前、走るよ!」

友人に言われて名前は次の授業が行われる教室へ向かって走った。



4時間目の授業を終えた名前は、ポカポカと春の陽気に包まれた桜の木の下でスヤスヤと眠っている天童の姿を発見した。
男女バレー部が呼び出されているらしく友人は教室へ彼を探しに言ったが、名前が先に見つけた。

寝れるところって言ったら…保健室か、屋上か、木陰か…と思ったんだけど…本当に居るとは思わなかった。

天童にそっと近づく。授業の教科書などを抱えたままの名前はそっと隣に腰を落としジッと彼を見つめる。

「寝てる時は静か…」

視線を移動させ、彼の真っ白なブレザーを見てみればピンク色の花びらが乗っている。
また一つ、また一つ…と上からひらひらと桜の花びらが落ちて来ていることに気づき天を仰ぐ。その景色に思わず目を見張る。桜の花にできた隙間から太陽の光が漏れて下から見た花は、濃いピンク色をしていた。

「…キレイ。」

思わず手を伸ばす名前。その時、目を開けた寝起きの天童が気づいて視線を移動させた。
彼がこの時見た景色は、とても美しいものだったに違いない。天童の口が僅かに開いた。

「名前ちゃん…」

視線を移した名前が微笑んだ。

…ホントさ、なんでこんなに可愛いの…。

ゆっくり身を起こした天童のブレザーから桜の花びらがさらに地面へ散る。

「天童のこと探し―…」

全部、俺だけが見れればいいんだよ…?

そばにあった彼女の腕を掴んで、引き寄せればそっと耳打ちした。

「いい加減にさ?俺だけのものになってよ、名前ちゃん。」

この一瞬にして彼は名前の脳内を奪った後、天童はそのまま彼女を抱き寄せる。
さっきの言葉と、突然の行動のあまり名前の思考は現状についていこうと必死だ。
そこに、追い打ちをかけるように天童は言う。

「ダメって言われてもOKくれるまで離さないよ?いいの?」
「よ、よくないけど…」

こうした全く予想の出来ない彼の言動の繰り返され、徐々に名前の心の奥までも奪っていったのだった。

脳内心中