第二話



綱吉には恥ずかしくて話していないが、私にも“好きな人”がいるのだ。
いつかは言ってもいいと思っているのだが、根はチキンな為になかなか言い出せずにいた。

しかし、チキンな私もチキンなりに彼の視界に少しでも入るため、日々努力をしている。

その一つがボランティア部部長になったこと。
ボランティア部は風紀と結託して、並盛中学地区の奉仕作業を行うことが多くある。
それで部長になればおのずと彼と話せると思ったのだ。

……我ながら邪心の塊である。




応接室の扉の前に立ち、心の中で気合いを入れた。
少しでも彼に良いように見られるために努力を惜しまない。
そしていつものように扉を三回ノックし、口を開いた。

「失礼します、ボランティア部です。先週の活動報告書を持ってきました」

「入れ」

彼の揺るぎない凜とした声が私の鼓膜に届く。
ああ、この一言を聞いただけで私はまた一週間頑張れるんだ。

「失礼します」

震える手足を叱咤して、扉を開き、一歩だけ室内に入って扉を閉める。
そこにはいつものように風紀委員長の雲雀さんと副委員長の草壁さんがいて、書類整理をされていた。

机に座る雲雀さんの目の前まで摺り足にならないように、猫背にならないように、足音を立てないように、歩を進める。
そして雲雀さんに活動報告書をゆっくりと差し出した。
彼はそれを受け取って中身を確認した。


「……君の代では盛んに活動しているようだね」

「あ、ありがとうございます!光栄です!」

あの泣く子も黙る風紀委員長さんにそう言ってもらえると、一週間フルでボランティアをしたかいがあるというものだ。

感動する気持ちを押さえて、そういえば、と用事を告げる。

「……あの、今度北区の清掃活動をしようと思っているのですが、風紀委員会のお力をお貸ししてくれませんか?」

「ああ、あそこね」

北区は近くに不良高校があるので治安があまり良くない。
昼間といえど、真面目で弱そうな中学生が清掃活動なんてしていたら良いカモだろう。

「いいよ。で、何時なの」

「今週の土曜には、と」

「ふーん、分かった。君、帰って良いよ」

「……失礼しました」

本当は彼のいる空間にもっと居たいけれど、そんなことをすれば確実に咬み殺されてしまう。


パタンと音を最小限に抑えて、応接室の扉を閉めた。
胸に手を置いて息を吐き出す。
自然と笑顔になってしまうのは仕方のないことだと思う。

さあ、今週も頑張ろう。


帰ろうと足を数歩動かした時、聞き慣れた声が響いた。

「千絵…?」

真正面の声に顔を向けると、そこには驚いた顔をした綱吉が立っていた。


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