第一話
それは、とある強い雨の日のことだった。
「……なぁ、千絵」
「なーにー?ツナー」
私は幼稚園来の付き合いの、所謂幼馴染みの部屋でお菓子を摘みながら漫画を読んでいた。
中学に入ってからはツナの周りはとても騒がしくなったので、部屋にはあまり来れなかったのだが、今日は豪雨ということもありいつものメンバーは着ていなかった。
「お、オレ……その……すっ好きな人が出来たんだよね」
ザーザーと強い雨の音の中、部屋の主である沢田綱吉もといツナが顔を真っ赤にしながらいきなり告白をしてきたのだ。
「……初恋の相手のキョウコちゃんでしょ?」
以前にツナが打ち明けてくれた初恋の相手という笹川京子ちゃんを思い浮かべる。
面識もなくクラスも違うが、学年一の美少女である彼女の顔を思い浮かべるのは容易だった。
「それはその……勘違い、だったていうか…」
「はぁ!?」
「いやいやいや!もっもちろん京子ちゃんは笑顔が最高に可愛いし、大好きなんだけどさ……オレの探してる初恋の相手ではなかったんだよね」
慌ててぶんぶんと両手を振るツナに呆れて声も出ない。
私は相変わらずのツナにため息をこぼしたのだった。
「ふーん……で、どこの誰だったの?キョウコちゃんは」
読みかけの漫画を置いて、正面に座るツナに向き直る。
私は幼馴染みの恋バナにドキドキしながら耳を傾けた。
「それは……言えない」
「え?」
以前は同じクラスになった京子ちゃんだと恥ずかしそうに言ってくれたのだが、今回はなぜか違うようだった。
「……ごめん」
いつになく思い詰めたような辛そうなツナを見て、私は内心ものすごく驚いた。
いつもはなにがあっても困ったような顔で笑うのに……初恋の相手であったキョウコちゃんはツナにとって、それだけの人物だったのだろうか。
「そっか、分かった」
「……千絵」
ツナが深刻に悩んでいる。
ツナとその相手の間にはなにか深い溝か、高い壁があるのだと私は悟った。
「その代わり、いつかはきちんと教えてよね」
「うん!」
周りが騒がしくなって、頼もしく成長した幼馴染みの恋がいつの日か実ればいいなと、心の中で本気で私は思った。
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