好きな料理

「ちゃおっス、夏実」

「あ、おはよ、リボーン君」

今日は母が友達とミュージカルを見に行くらしく、朝早くから機嫌よく出掛けてしまった。

なので私は朝食と昼食を綱吉とリボーン君の分まで作らねばならなかった。
料理だけは母に似て上手く作れるので、苦労することはない。

「朝ご飯、食べる?」

「ああ」

適当に作った野菜たっぷりの味噌汁とだし巻きたまご、出来立てのご飯をよそい、席についたリボーン君の前に置く。
熱いお茶も注げば、少し質素だが完璧な朝の和食だ。

「ところで夏実」

「なに?」

リボーン君と二人という微妙な空気の中で静かにご飯を口に運んでいると、不意にリボーン君が口を開いた。

「雲雀恭弥の連絡先を教えてくれ」

「……うん、いいけど」

何するの、と目で聞けばリボーン君はニッと読めない笑顔で小さな手をこちらに差し出してきた。携帯よこせってか。

私は読めないニヒルな笑みの赤ん坊を数十秒間見つめ、ついにため息を吐いて大人しくポケットから携帯を出すのだった。




ヴォオオン!!と聞き慣れたバイクの音で目が覚める。
どうやら手紙を書きながら机に突っ伏して寝てしまったようだった。

彼はきっとリボーン君関係で来たのだろう。
隣の部屋から綱吉やその友人の焦った声が聞こえてきた。

……そういえば下拵えしたハンバーグ、多く作りすぎた。携帯もまだ返してもらってない。
そんなことを思いながら、目的を果たすために自室を出て、隣の綱吉の部屋に歩を進める。



「雲雀、いらっしゃい」

「やあ、沢田」

綱吉の部屋には綱吉、リボーン君、山本君、獄寺君。そして出会い頭に私のことをお義姉様と呼んだ自称未来の綱吉の嫁、三浦ハルちゃんがいた。

雲雀は窓枠に足をかけて帰ろうとしているところだった。
風紀も今日は休みのはずだったが、雲雀は今日も学ランだ。

「雲雀、昼ご飯に作ったハンバーグ作りすぎたんだけど良かったら食べてかない?」

雲雀の鋭い目が見開かれた。
そしてニヤリと唇を歪めると窓枠から足を降ろした。

「……目玉焼きもつけてね」

「りょーかい。あ、靴脱いで」

「わかってるよ」

唖然としている弟たちを抜けて雲雀がこちらに歩いてきた。
今雲雀が踏みつけたのって死た……私は関係ない、ない。

「えぇえええ!?姉さんとヒバリさんって知り合いなのー!?」

綱吉がパニックを起こしているらしく、大きな声で叫んだ。
そんなに意外なことでもないと思うのにな。

「私が生徒会長で雲雀が風紀委員長だから必然的にね。まぁ、私は雲雀を……友人だと思ってるんだけど」

「……友人なら僕の好み分かるでしょ」

それは暗に自分の好みのように作れと脅しているようだ。

「はいはい、じゃ下行こ」

機嫌がいいのか悪いのか分からない雲雀を引き連れてキッチンまで降りていく。
上からまた叫び声が聞こえたのは聞かなかったことにする。

あ、ケータイ。
後ででもいっか。


* * * *

「どーお?」

「まあまあだね」

「そのデミグラスソース頑張ったんだよ。雲雀の好みに合わせて作ったんだから」

「今度は和風ハンバーグ作ってよ」

「気が向いたら、ねー」

そういえばなんで今日愛海居なかったんだろうな。
そう呟けば、目の前の整った綺麗な顔がニヤリと笑った。



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