朝の日常


「ツナー!起きてるー?」

にこにこ笑顔で玄関に立つ、我が弟の幼なじみ、姫川愛海をため息を吐きながら目を向けた。

「綱吉ならまだ寝てるよ。起こしてきてあげたら」

愛海にそう言って、さきほどセットしたお団子頭を弄る。
昨日はあの男のせいで少し崩れたけど今日は大丈夫そうだ。

「うん!なっちゃん!」

男なら10人中10人がかわいいというような無邪気な笑顔を浮かべ、階段を駆け上っていった。

「なっちゃん!」
「なに?」

楽しそうな彼女を見送って、いつもの綱吉の叫びを聞き、やっと玄関を出ようとすると後ろから母に呼び止められた。

「あのね、ツっ君に家庭教師の先生をつけようかと思ってるんだけど」

「へぇ、なんでまた?」

「昨日ポストに面白いチラシが入ってたでしょ」

母から手渡された一枚の紙。
私が昨日の夕方に母に手渡したチラシだった。

「“お子様を次世代のニューヨークリーダーに育てます。学科・教科は問わず リボーン”」

「ステキでしょ?こんなうたい文句見たことないわ」

頬を赤らめていう姿に思わずため息が零れた。
未だにこんな可憐な女の子のような人が二児の母だといいのだから世の中は分からない。

「別にいいんじゃない?じゃ、私いってくるから」

「はい、いってらっしゃーい」

母の笑顔を背に今度こそ玄関を出た。

そして、何年間もやり続けたせいなのか無意識に動く手をぼんやりと眺めながら呟く。

「どうせ、」

ポストから新聞を引き抜いて、恐る恐る中身を見る。
そこにはいつもの通り、何も入ってはいなかった。

いつまでこんなことをし続けて無駄な期待するのかと自問自答しながら、新聞を元に戻した。

「    」

彼の名前を、呟く。
もちろん答えてくれる人などいなかった。

癖になってしまった今日何度目かのため息を吐き、重い足取りで学校に向かった。


影からそれを見ている人がいるのを、私は気づかなかった。




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