▼印象 4月の雨。俺の初登校日は少し肌寒かった。 転校生として新しい場所で新しい生活を始めるなんて良くある話。 そういう時はきっと何もかもが新鮮で出会うどれもこれもに驚ける。 どんな事だって。 けれどまさかこんな驚きが俺の始まりなんて誰が予想出来るだろう。 「うぉ‥ぉお、おっ!」 何やら呻き声が聞こえて。俺が気づく頃には彼はゴミ置き場にダイブしていた。 通学路。ふらふらと傘をさしながら自転車をこいでいるのを見かけて、あれで電信柱にでもぶつかりに行ったらお笑いのありきたりなコントだ、なんてぼんやり眺めてた。 まさかそんなありきたりな奴がいるなんて思わない。 だがソイツはありきたりに電信柱に突っ込んで側のゴミ置き場に倒れた。 あまりのことに俺は笑いも出来ない。 目の前でゴミ袋に埋もれてるのは恐らく今日から俺が通う学校の生徒だろう。 初日から、しかも登校中にこんな漫画みたいなイベント有りなんだろうかと早々にうなだれた気分になる。 「…(声、掛けた方が良いのか?)」 少し迷った。 こういう場合は大抵今後良く分からない事に巻き込まれたりして面倒になったりするのがお約束だったりするから。 そっとしておこう。 そう思った。 だけど目の前で起きているのにそれを素通りして平然と出来るような勇気が今の俺にはなくて。 仕方なく俺はソイツの側に寄ってしゃがんでみた。 「大丈夫か?」 「いっつつ…あ‥」 ゴミ袋から顔を引っ張り出してきた彼と目があった。 彼は首を何度か左右に傾けてねちがえた時みたいな顔をしていたけれど、俺と顔を合わせて暫すると顔を赤くし始める。 何だろう。 その表情を見て変な気分になった。 「はは、さんきゅ。へーき へーき」 彼は笑っていそいそと自転車を立て戻す。 流石に恥ずかしいらしく彼は俺に軽く手を振って足早に去っていった。 行ってしまった。 それを俺はずっと見つめていた気がする。 何かもっと声が掛けられた気がした。 どうして残念に思ったんだろうか。 何だろう。今、何故か俺は緊張していた。どこに緊張するタイミングがあったのかは良く分からない。 何となく彼の照れた顔を見て思った。 そんな気もするけれど、それが何故だかは分からないし考えても答えが出ない。 「…ヤバい、遅刻する」 我に返った。道に突っ立って何してるんだろう俺は。 俺は今日大事な初登校なのだから今考えるのは学校、それだけに尽きる。 それに同じ学校ならきっとまた会えることもあるだろう。 そう必ず、逢える気がする。 そんな不思議に確信した気持ちがこの後本当に当たるなんて思いもしないで。 俺は小雨で少し靄のかかった道を真っ直ぐと、新しい学校を目指した。 不可思議 (可笑しな気持ちだ) |