▼雨音と声 「もしもし?」 『花村?』 雨の日は大抵電話している気がする。 仕方ないんだ。 雨音を聴くとアイツが、浮かんじまうんだから。 『どうした?』 「あー‥や、なんか雨の日はお前に電話しなきゃいけない気がしちまうんだよな‥ ほらっ、次霧が出た時さ!気になるだろ?」 何を言ってるんだと思う。 ついこの間だって事件のことで電話したくせに。 いつもの落ち着いたアイツの声に変に焦っている俺の声は対称的で。 アイツは初めて逢った時から今時の学生らしくない落ち着きがあって妙に大人びて見えた。実際喋ってみて同世代らしさも感じたから少し安心したけど、それでもどこかふわっとしていてつかめないとこがある。 それに憧れてるんだって初めは思ってた。 そうじゃないと可笑しいって思ってたから。 でも毎日顔合わせる度、仲間として一緒に戦う度に自覚していく。 俺のアイツに対するこの感情は本物で。それも今まで感じたことがないくらい気持ちが募ってるって。 『そうだな‥でもまだ分からない事だらけだから‥』 「あ、あーまぁ‥そう、だよな」 全く言うとおりだ。 今は何も起きてないしまだ事件と天気の関係性だって曖昧なんだから。 俺は全然可笑しな電話をしている。 けれど次に口にすべき言葉が見つからなかった。 『花村?』 「や‥えっと」 心配そうな声がいつもより優しく聞こえるのはきっと携帯越しだからだ。そう思うことにする。 妙な間が空いて無言の時間に外を降りしきる雨音が妙に良く聴こえた。 「ごめん…何も、ない」 やっと言って落ち込んだ。 カッコ悪いな、俺。 いや、元々声が聞きたくて電話なんかしてる時点で格好なんかつく筈がないんだけど。 『何で謝ってるんだよ、可笑しなヤツ』 「ははは、何でだろうな…」 軽く笑うアイツの声に俺もつられるように中途半端な笑いを返す。 このまま電話は切れてもおかしくないけど、その為の言葉が俺には出て来ない。 気まずい。 雨音が俺をけしかけてるようなそんな気分になった。 「あ‥の」 『お前なら』 取りあえず何か言おうとしてアイツの声がした。 『お前ならいつでも掛けてきて構わないよ』 何気ないごく普通の。 友人に対する気さくな言葉。 それだけ。 けれどそれだけで。 俺が雨音を好きになるには十分過ぎたんだ。 止まらない (雨の日は複雑なんだ) |