▼かわいいひと 「うわっ、美味そ!ホントに食って良いのかよっ」 まるで宝箱を開けて財宝でも見たかのように目を輝かせている。 いつか陽介が食べてみたいと言ったから作ってきた弁当は今日は2つ。 高が手作りの弁当。作り手としては、それくらいにしか思い入れはない。 けれど彼に褒められれば少し違う感覚が味わえるから、そこは良しとしたい。 そんなに明るく華やいだ顔をされると無性に抱き締めてやりたくなって、彼のことがまともに見れなくなるから少し参る。 きっと彼は俺がどんな思いで冷静な顔を装っているかなんて露にも思ってはいないんだろう。 「うめぇ!お前何でも出来んのなっ」 「別に‥。ほら、ウチは大体菜々子と2人で飯にすること多いから」 「毎回作ってんのか?」 「いや、それは流石に。でも1週間毎日ジュネスの弁当と惣菜じゃ可哀相だし‥」 「おいおい、ウチの惣菜と弁当はバリエーション豊かだぞ〜?」 俺の言葉に少し拗ねるように陽介は口を尖らせてきた。 無自覚だからこちらも平静でなければならない。そうでなければ何となく悔しい。 俺だけがこんなに息苦しくなっているなんて。 少し眉を上げて俺は笑い返した。 「はは、悪い。別にそう言う意味で…」 「?何だよ」 陽介の言葉は俺の耳に聞こえていた筈だけれど。 それを気に留めもせず気付けば俺は彼の口元に集中していた。 俺の作った弁当の米粒が口の端に付いてる。 それもいくつも。本人はまるで気付いてはいないらしい。彼らしいと言うべきなのか何なのか。 兎に角そのあどけない顔で俺を見つめてくるものだからどうしても抑えられない。 悪いのは俺じゃない。 「?どうし…」 「じっとしてろ」 指先だけで取ってやるだけには惜しい。 その口元見ているだけで。 嗚呼、とても腹が減るから。 ちゃんと口から食わせてもらうよ。 「‥っ!?なっ…」 「陽介はまだまだ子供だな。米粒付けすぎ」 「だっ、だっ…だからってお前!くち、口でっ!!」 「落ち着け」 瞬く間に顔を真っ赤にさせて怒っているようだけれど、動揺し過ぎているのがわかるからまるで迫力がなかった。 別に唇に触れた訳じゃない。 あくまで口元に付いていた米粒を口で吸い取ってやっただけ。寧ろそれだけで終わらせてやったんだから感謝してもらいたい。 しかし彼は納得いかないのかふてくされている。 仕方がないと思いながらもそんな彼が可愛らしいから俺には降参しか手がない。 「悪かったよ。もうしない」 俺が謝ると彼は、今度は何だかそわそわとし始めた。 「陽介?」 暫く黙るからどうしたのか気になって様子を窺ってみる。 「…や、やるならちゃんと‥言ってからしろよ…」 全くそんな返しは予想していなかったな。 目を伏せ声は動揺したままの恥じらうようなその姿。たまらない。 俺は思わず持っていた箸を落としそうになっていた。 もうダメ (ああ、なんてかわいいひと) |