▼恋せよ堅物


ある日、我が生徒会会長が全員に召集をかけた。

側には生徒が1人。


「彼女が今日から生徒会の仲間になる」

「宜しくお願いします」


何の前触れも事前の知らせもなく、彼女は生徒会へやって来た。
面と向かって顔を見たのはこれが初めてだが存在は既に知っている。
綺麗な転校生がやって来た、と一時期学年には同じ話題が流行っていたからだ。
一度すれ違ったこともある。

確かに第一印象は綺麗、だった。

だが恐らく彼女はそれだけではないのだろう。
転校早々あの桐条先輩と知り合い推薦される生徒だ。
何か他に有るんだろうかと、不思議と気になったがその時はまだそこまで重要だとは思わなかった。

「宜しく」

「宜しくお願いします」

彼女はひとりひとりに挨拶しに来て、自分の番が来た。
他よりも少し硬い顔をして丁寧だったからいつもの予想は当たりそうだ。

「あぁ。ちなみに僕は君と同級生だからな」

「えっ」

「まぁ気にしちゃいないが」

「いや、全然そんな…」

「自分は年相応の顔をしていない、と良く友人には言われるよ」

「あ〜‥」

僕が言うと彼女は素直に驚いてから、更に自分の今の反応は不味かったかという顔を見せ、否定するのは肯定しているようなもの。
顔に出さなければ悟られることもないだろうにと僕は胸の内で笑いながら、彼女は案外抜けているのかもしれないと自分も意外に失礼な事を考えていた。
バツの悪そうな彼女に僕は笑ってやる。
ついでに馴染みである写真部の友人がいつか緩い笑顔で言った微妙な発言を借りてみたりしたが、何故自分はそんな余計な話までしているのか。
彼女は一瞬納得しそうになった自分を振り払ってから気まずそうに苦笑する。

「ごめん」

「謝ると言うことは上級生に見えたのかい?」

「あっ…や、えっと‥」

先程から少しからかい気味に言ってみる僕に彼女は困ってまごつく。

忙しなく変わっていく彼女の表情。こんな顔もするのか、なんて。

どうしてそんな感想を抱いたのか。
どうして今日はこんなに口が軽々しく回るのか良く分からない。

そんな少しの動揺を僕が顔に出すことは当然ない事だが。

「はは、すまない。これから一緒に頑張ろう」

「‥うんっ」

僕が手を差し出せば彼女は笑顔で握り返す。

自分の手が少し熱い気がしたのは、彼女の手の温度が低かったからだ、きっと。


* * *

彼女は生徒会に入ったものの大分忙しい人間らしく活動日に毎日皆勤とまではいかなかった。
それでも合間を縫っているのだろうか自身に仕事を与えられた時はきちんと活動しにやって来る。おまけに生徒会の皆といつの間にか打ち解けて作業効率を上げているから驚きもしたが、会長が彼女を連れてきた理由が何となく分かった気もした。

たまたまなのか僕は彼女と作業する時間が多かった。
同級生であるから重なる時間も似ているのかもしれない。
あまり他人と喋る、ましてや同年代の女子となんて機会はないからどう話して良いか初めは戸惑いもしたが彼女には何故か話しやすさを感じた。
案の定彼女は普通の生徒からしてみればお堅い僕の話にもしっかりと耳を貸す。それはただ上辺だけを合わせると言うことではなくて本当に純粋な会話として対等に聞いて話してくれていた。
そんな子に僕は今まで出会った試しがないから少し喋りすぎているかもしれない。


「君の意見はなかなか興味深いな」

「そうかな?」

「随分と周りを良く見ているようだ」

「そんなことないよ」

彼女と話していて分かった、と言うか感じたことがある。彼女はとても周りに気を使える子らしい。
しかもそれが素だからあれだけの人気を瞬時に獲得出来たのかもしれない。
人をよく見て全てを受け入れてくれそうな話しやすさを雰囲気で感じ取れたからだ。

「君は柔軟性がある」

「人には人それぞれ意見があるから、良くも悪くもみんな聞いてみようって思うだけだよ」

彼女は笑って何のことはないという風に自然に言った。そのさらりと口に出された言葉がどれだけ広く感心されるべき言葉かを、勿論彼女が気付いている訳はない。

僕は意見を明確に真実は正しく常に見えていなければならないと思う派だ。その為には時として他人の意見を遠慮なく踏み倒し多くの敵を作ることもあるし、その為のリスクもあると理解している。
彼女はそんな気難しい意見に素直に共感をしてくれると共に、僕以上に清く物事を見つめているのかもしれないと思った。

単純に凄いと感じたのは嘘ではない。

そんな僕の眼差しは余りにも強く注がれていたのか、彼女は気恥ずかしそうに苦笑して見せた。

「私は小田桐君みたいに自分の意見はっきり言えて突き進む方が良いと思うもん」

「そうだろうか」

気を使ったという訳でもなく、それは彼女の本音で。少し羨んだような遠い瞳から目は離せなかった。
これは自分を褒めてくれているのだろうか。まだ良く分からないが胸の内が穏やかではないから恐らく僕は、初めて自分を同世代に認めてもらえたような嬉しさを感じていたのかもしれない。

そんな時に曖昧な聞き返ししか出来なかった自分を情けないと思った。

「うん、だってその方が格好良い」

「かっこ…」

「小田桐君は格好良いと思うよ」

彼女は屈託なく笑っていた。
思考が一瞬止まる。
お世辞でもそんな事を容易く素で言えてしまう彼女はやはり凄いと感じた。


彼女となら自分も素直に上手くやっていけるだろうか。


「君は‥随分不思議な事も言うんだな」

「何が?」

「いや…」

全く心当たりもないといった顔で彼女は首を傾げる。
僕は小さく笑う。それを見て彼女もやんわりと笑った。


可愛い、と言うべき、か。

思って首を振った。
何を思ってそんな事を考えたんだ自分は。


何か不純物が混ざっている気分で今更ながら僕は自分が風紀委員だと言うことを自分に言い聞かせていた。


何か、不味い気がする。
自分の使命を忘れてしまわないか。
けれどそれ以上にこれからの日々に期待しているような自分の、この胸の内。


まずはこれをどうにかする事から始めねばならないだろうな。







(自分でもまだ、分からないんだが)


10/05/09.
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