▼苦い気持ち ―あんなのいつものことじゃないか― 積み重なるのはいつもアイツへの想いと、それとは裏腹な不満。 「ねぇねぇキミ今日暇?」 「ん?そうだな‥特に無いけど」 「よっしゃ!じゃあ、今日は私と土手でトレーニング!」 「里中元気だな…まぁ別に構わないよ」 「えっへへ〜やったー!」 放課後。アイツと里中の他愛ないやり取りを席に座って眺めている、俺。 何だ、そのやり取り。 いつからそんなに誰かと笑うようになったんだよ。 そんな事、言える訳がない。 「花村?」 「‥何」 「花村も一緒に来る?」 「え」 アイツの言葉に少し期待した俺。 一体何を期待してるのかは分からないけどアイツに誘われて確かに俺の胸は跳ねた。 「なんか暇そうな顔してるから」 「…あ、いや…‥俺はそんなヒマじゃねーの!今日もジュネスの手伝いっ」 「そっか」 暇そうに見えた。それだけ。 考えて見ればごく普通の会話じゃないか。 何もおかしくない。 おかしくないけど、悲しくなったのは何故、なんて疑問すら今の俺には浮かばない。 だってその理由を、俺はもう知っているから。 俺は無理矢理自分をいつものようにおどけて演じて返した。かなり一杯一杯で不自然じゃないか心配だったけど。どうやら平気だった。 「未来の店長は忙しいんだね〜」 「うっせーな里中」 「なーによっ。もう‥じゃあ行こっか!」 俺をからかういつもの里中の声が最近は凄く嫌みに聞こえてならない。里中のせいじゃないのに、里中を恨めしく思っているかもしれない自分がとても嫌だ。 里中がアイツの袖を引いて見上げている。 仕草が酷く女らしく見えた。可笑しい、ガサツでも里中は一応女の子だと認識していた筈なんだけど。 もしかしたら彼女も変わっているのかもしれない。 そう思ったら俺の中で不満がまた増えて自然と眉間に皺を寄せていた。 袖を引かれるアイツは穏やかな微笑を浮かべて里中を見ている。 アイツは今何を、誰を考えてその顔を見せているのか。 そんなのは俺の想い過ぎた被害妄想だって事は知っている。知っていても思い過ごす事が出来ない悔しさは切ない。 そんな顔。遠くから見たくはなかった。 誰より近くで見たいのは俺なのに。 心の中ではどんな偉そうな独占欲も吐き出せる。 我ながら非常に惨めで哀れだと自嘲出来た。 「ん。じゃあまた明日な」 「おぅ…」 適当な返しのやり取りで足音が俺の元から去っていく。 教室を出て行く2人を俺は笑顔で見送れていただろうか。 友情に一方的で無理矢理な介入は出来ない。 それでも諦めてくれないから俺の心はまた小さく一声悲鳴を上げて。 まるでセンチメンタルな乙女か。 「あァ…クッソ‥」 頭抱えて俺は暫く席を立てなかった。 手伝いの時間は刻々と迫ってる。 嗚呼、俺の限界も確実に迫っているよ。 それを越えたら俺はどうするんだろう。 そんな風に自分の中の勇気に淡い期待もしてみるけど。 きっと何も出来やしない。 また1から愚かに想いだけを募らせ膨らませて、その繰り返し。 俺には“現在”を壊して何かを手に入れてやれる程、確立した自信なんてない。 だからこれは、この気持ちはいつまでも平行線。 「何だよ、それ…」 ―そしていつも通りの日々― 捨てたい (こんな嫌な感情) |