▼倍返し 背後から突然の衝撃と温もりを感じて。 項近くにサラサラと髪の毛が擦れるくすぐったさを感じれば気になるので振り返る。 けれど抱きつかれてぴたりとくっつかれていればその姿が上手く見えない。 それでも珀は慌てず騒がず落ち着いて。取りあえずは様子を見ようと黙っていた。 見えなくとも誰なのかは想像がつくから少し笑う。 暫くするともぞもぞと何度か背中に動く感触。 そしてそれが止むと聞き慣れた声が珀の耳に聞こえた。 「なぁ…」 「何?」 陽介の呼び声に珀は優しく応える。 それが好きで意味もなく呼びたくなるのは陽介の常。 少しの間。 じんわりと互いの背中と胸に温かさと幸福が広がるほんの少しの時。 「…好きだっ」 「‥そう」 陽介が強く抱き締める両腕に力を込めて言う。 珀は何も変わらぬ声色で一言だけ吐いた。 再び間が空いて。 それは先程より少し短い間だった。 「反応薄くね?」 「そんなことない」 陽介の声が少しくぐもって低く聞こえるのは珀の背中に口元を押し付けているからだけではなさそうで。 期待外れに感じるもほぼ予想通りの珀の冷静な反応に陽介は少しだけ恥ずかしくなり同時に寂しくもなって黙った。 陽介がそれ以上何も言ってこないことで珀には彼の様子や表情が容易く読み取れる。 それはいつもの彼らしい態度と言うべきか、はたまた自分の変わらぬ態度を相変わらずと言うべきか。 どちらにせよ考えている自分が全く悩んでいないことに珀は妙に浮き足立つ可笑しさを感じていた。 そんな気持ちでは普段言い難い恥ずかしい言葉がいとも簡単に口から零れていくのが止められず。 むしろ言いたくて仕様のないこの状況を楽しんで望んでさえいると珀は感じた。 「陽介」 「何だよ」 自分を抱き締める陽介の両腕を解かせ珀は半回転して彼と向き合い、今度は自分から彼の腰に両腕を回して抱き締めた。 ほぼ変わらぬ互いの身長でも陽介は少し見上げるように珀を見る。 珀は柔らかく笑って陽介を見つめてからそっと落とすように自分の頬を彼のそれに近づけ触れて、それは優しく囁いた。 「愛してるよ」 「‥っ!!」 たったそれだけの言葉の衝撃は陽介には十分過ぎるくらいに深い破壊力を持っていて。 数秒も掛からずに陽介の顔は真っ赤になった。 それを眺める珀の表情はやはり落ち着いていて。 爽やかに清々しく微笑む彼を、陽介はただ悔しがるように見つめるしかなかった。 敵わない (ぜってーずるい!) |