憂鬱な火曜日の朝がやってきた。火曜日は一週間の中で一番嫌いだ。六時間授業だし、委員会があるし、面白い番組はやらないし、特にこれと言った楽しいこともない。 お気に入りのJポップの音楽が携帯から大音量で流れサビの部分が何度もリピートされる。いい加減うるさいので渋々けだるい体を起こして携帯の元へと手を伸ばすけれどなかなか届かない。おかしいなここに置いておいたはずなのに。半目のままふらふらと手をさまよわせて携帯を探す。その瞬間自分の体が一瞬浮遊したような感覚に陥りそれも束の間今度は背中に激痛が走る。 「いてて…」 文字通り私はベッドから落っこちた。携帯はいつの間にか床に場所を移動させていて思わずため息が漏れる。じゃんじゃかうるさい携帯をパカッと開いてアラーム設定を解除する。待ち受け画面の"06:06"という数字にうわあ不吉だなぁなんて寝ぼけた頭でぼんやり考える。枕元に置いておいた眼鏡をかけぼやけていた視界がはっきりした所で私はよいしょと年寄り臭い声をあげてふらふらと立ち上がった。そしてお母さんの「ご飯よー」という声で不安定な足取りで階段を降りていくと美味しそうなホットケーキのふんわりとした甘い匂い。そんな匂いですぐに逃げていってしまう単純な眠気に半ば自分で呆れながらも私はできたてほやほやのホットケーキにたっぷりバターを塗った。 「いってきます」 ローファーを履き終えてないまま家を出て歩きながら自分の足に収めていく。一見登校時刻に間に合わず遅刻しそうな女学生に見えるが、断じてそんなことはない。 時間に余裕はあるがとりあえず私は早く学校に行きたかった。理由は簡単で、少しでも誰にも縛られない時間が欲しいのだ。一人でぼうっとして本を読む時間が。友達が来てしまえばどうせ長ったらしい自慢話に付き合わされるだけなのだから。 今日は良い天気だ。雲一つの無い青空にお天道様がギラギラと元気に輝いている。ここ最近はずっと雨ばかりだったからとても清々しい気分になる。あまりの天気の良さにスキップをしたくなるけれど勿論いい年した中学生がそんなことをしていれば変な目で見られるのは間違いないだろう。 学校に着いて中に入ると校舎は何一つ話し声が聞こえない沈黙に包まれていた。靴箱には時間が早いせいか入っているのは全て上履きで、安堵の息を吐いた私は上履きに履き替えると教室へと向かおうとした、が。 「声が、きこえる…」 声のする校庭へと足を進め、入り口からそっと外の様子を覗きこむ。そこには黒と白のボールを扱って蹴ったり、受け止めたりする男の子達が声を張り上げながら練習していた。足だけであんなコロコロ落ち着かない物体を扱えるなんて、運動神経のない私にとっては超人にしか見えなかった。 見ていればこれがサッカー部だというのは情報に疎い私でもすぐにわかって、すごいなぁなんて感心しているとその中のある人物が私の興味をひく。 「倉間、くん…?」 背が低く褐色の健康的な肌、そんな肌の色によく映える薄水色の髪の毛をした男の子はまさしく倉間くんだった。昨日、たまのすけと遊んでいた所を目撃され、私以外には牙をむいてなかなかなつかないたまのすけがなついた人物。しかしパシリパシリと散々馬鹿にされたことは地球が一回りしようともイライラがおさまらないけれど。 「サッカー、やってたんだ…」 彼は小さい体でちょこまかと動き先輩の持っているボールを一生懸命追っていた。その様子が可愛くてちょっぴり笑ってしまう。頑張るんだなあ。 いつの間にか倉間くんに気をとられていた私は目の前を通り過ぎた休憩中であろう先輩によって我に帰りすぐさま隠れた。息を止め体を丸っこくして暫くすると先輩はどうやら私に気付かず行ってくれたらしくほっと息をつく。ってなんで私こんなコソコソして…。 「何やってんだこんなとこで」 「ハヒィ!!!」 心臓が口から出るかと思うくらいびっくりした私の口から出たのはわけのわからない奇声だった。上から降ってきたちょっとえろかっこいい声に恐る恐る目をやるとそこにはタオルを肩にかけた二年の先輩が目を細めて機嫌の悪そうに立っていた。 110724 / こわい |