「イルミー!!」

 ばたん!とドアを開く大きな音。振り向くと愛しいオレの婚約者、ナマエがいた。いつも明るい彼女は、今日も小動物を思わせる動きでとてとてとオレに歩み寄り、背中にしがみついてきた。可愛い。

「何?どうしたの?」

「あ、あのね…」

 顔を向き合わせるとさっきまでの元気はどこへやら、何故か俯いて目を泳がせた。それでもしっかりオレの服の袖を掴んでいる。凄く可愛い。

「私たち、もう付き合いはじめてどれくらい?」

「うーん、そろそろ一年かな?」

「そう、そうなの!……で、何か言うことない?」

「……言うこと?」

 ナマエの顔が赤い。何に照れているんだろう。言うことっていってもな……オレが今思ったことでいいのかな。
 勝手にそう自分て解釈して、目の前の小さな身体を抱き寄せる。え!え!?と慌てる彼女に耳元で小さく呟いてやる。っていうか、耳も真っ赤だし。可愛いなあ。

「好きだよ、愛してる」

「あ、あああありがと、私も……………ってそうじゃなくて!!」

 どん、と大して強くもない力でオレの胸を押したナマエ。あ、顔全体が真っ赤っかだ。滅茶苦茶可愛い。でも違うのか。何だろ、他に言うこと……あ。

「子供作ろっか、そろそろ」

「違う!斜め上にカッ飛んでる!!でもそのうちね!そうじゃなくてさ、婚約と子供づくりの間にあるでしょ?ね?」

「間?家族にはもう紹介したし、特に何もなくない?他にあったっけ?」

「…………はぁ…」

 勝手に恥ずかしがって勝手に落ち込んでる。オレは人の気持ちとか鈍いし、あまり分かろうともしない。でもナマエのことだけはよく分かってるつもりだ。だから意味不明な言動をとる彼女に、ちょっと、ちょっとだけイラついた。可愛いんだけどなあ。

「何?言ってくれなきゃ分かんないし」

「あ……ごめん。……そうだよね、言わせようなんて駄目だよね」

 俯いて何かを呟いたナマエは、さっきとはうってかわって力強い視線をオレに向けてきた。それでもまだ赤面してるということは、やっぱり恥ずかしいことなのかな。でも子供づくりより前っていってたし……。
 そんな風にごちゃごちゃと考えていたオレの思考は、次のナマエの言葉に完全に停止した。

「私と結婚してください」

「………………は?」

 え?……え?結婚?

 あ、ヤバいナマエ泣きそう。オレが気の抜けた返事なんかしたからだ。でも泣き顔可愛い。

「け、…けっこん……ぐす、してくださ……」

「今更?オレもう結婚する気満々だったんだけど。」

「え?……ほ、ほんと!?」

「本当だよ。てか何でそんなびっくりしてんのさ」

「だって……イルミ最近仕事ばっかだし、」

「ナマエ、さっきオレが言ったこと忘れたの?“愛してる”って」

「う、ううん!そんなことない!私だって愛してます!」

「じゃあ、オレからも。……オレと、結婚してください」

「は、はい!」

 涙を目に浮かべながらもはにかむナマエは、やっぱり物凄く可愛かった。それから思わず押し倒してしまったのはお約束だ。



□□□□



「……でね、ナマエ本当に可愛いんだ。それから“恥ずかしい”って逃げようとするんだけど、当然逃がす訳ないじゃん?まあ嫌々っていいながらもナマエ乗り気だったし、結局凄く気持ち良さそうだったし結果オーライ?まさかプロポーズの言葉程度であんな真剣になるなんて思わなかったからびっくりしたけど。……あ、それから勿論母さんたちには言ったよ、結婚するって。その時さー、ナマエオレの服の袖ぎゅーって掴んで離さないんだ。顔覗き込んだら恥ずかしがるし、顔真っ赤だし震えてるしで思わずそこでもう一回抱きしめたんだけど流石に母さんに怒られちゃった。で、早速結婚指輪と花嫁衣装決めようってことでさ、母さん凄く張り切っちゃって色んなドレス片っ端から取り寄せてナマエに着せてったんだ。オレ的には23番目に着てた白いシンプルなやつがやっぱいいかなーってーーー」

「イルミ?」

「何?まだ途中なんだけど」

「………ボクそろそろクモの集まりがあるんだけど◇」

「うん、だから?」

「……え?」

「ヒソカが話せっていったんだから最後まで聞いてきなよ」

(ボク、ナマエがどれくらい強いのか聞こうと思ったのに……もうかれこれ三時間経つんだけど…困ったなぁ◆)

 その後喫茶店の閉店時間まで、イルミはひたすら喋り続けたのだった。


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