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ゴンたちが水見式の修行を始めてから約2週間。
以前のように頻繁にウイングの宿へ通うこともなくなったため、(元からそこまで真面目に修行に付き合っていた訳ではないが)必然的にルーシャの外出頻度は減っていった。その間彼女がすることといえば、当然アニメや漫画、ゲームやネットとワンパターンだ。
そうしているうちに、いつの間にかルーシャの生活リズムは自然と昼夜逆転し、今日も彼女はゲームの電源を入れたまま机に突っ伏していた。

「ルーシャ!いるー?」

ドンドン、と扉を叩く音。その音で気がついた彼女は眠い目を擦りながらよろよろと部屋の入口まで歩く。ドアの向こうにいたのは久しぶりに見るゴンだった。

「あー…?なんだゴンこんな時間に……」

「いや、もう昼の1時だからね?……寝てたみたいだね」

部屋から出てきた彼女は髪がボサボサで、目も眠いのかあまり開いていない。寝起きなのがまるわかりの状態だった。ルーシャは欠伸を噛み殺し、目をさますように大きく伸びをする。

「んーっ!…っと。そんで?どうしたんだ?」

未だに寝ぼけ眼なルーシャはごく軽い口調でゴンにそう尋ねた。しかし少し間を置いて答えた彼のその言葉で、ルーシャの眠気は一気に吹き飛んだ。

「……試合の日、決まったんだ。ヒソカとの」

「はぁ!?………ああ、そうかついに…。いつなんだ?それ」

「7月の10日!あと2週間ほどだけど…」

「じゃあそれまでにひたすら特訓だな」

「うん!それでさ、修行の成果を見てもらいたくって」

そう言ってゴンは手に持っていたコップを見せた。ああいいぞ、と二つ返事で了承したルーシャは、部屋の中にゴンを招き入れようとして、それから気が付いたように慌てて彼を押し返す。

「ち、ちょっと待ってて!」

「え、え?どうしたの?」

200階の豪華で広いルーシャの部屋は、2週間でどこをどうすればこんなことになるのか、というほど漫画やゲームが散乱していた。慌てて彼女の持つ能力――――自由自在〈テレキネシス〉で片付けたためすぐに綺麗になったが。
これは本当に単なる彼女の思いつきで生まれた能力だ。いつも師匠であるネテロから雑用を押し付けられそれをこなしていたときにふと、考えたのだ。
もっと効率良く且つ楽な方法はないか、と。
そんな面倒くさがりなルーシャの気まぐれで作られたこの〈自由自在〉は、言ってしまえば念動力、その一言で済む。
つまり身の回りにあるあらゆるもの、家具、食器、なんでも目につくものは手を使わずに好きに動かすことができるのだ。
何も知らない者がその光景をみれば、一種のポルターガイストと勘違いすること受け合いである。

(こういう時に本当に便利だ、私のテレキネシス)

ものの数秒で片付いた漫画、DVD、ゲーム機、その他エトセトラ。一応まとまってはいるものの、その量の多さにゴンは少したじろいだ。
それには気づかないルーシャはコップに水を注ぎ、念のため下にボウルを置いてゴンに渡す。
コップを前に深呼吸をひとつしてから、彼は手をかざして早速練をした。

「お、前より増えてるな」

「ほんと!?」

ルーシャの言う通り、初めて『水見式』をしたときはほんのわずか一筋程度しか流れなかった水が、今は奥からわきあがるように増えている。コップの縁から溢れる水が、ボウルの中に少しずつたまっていった。

「ああ、やっぱり凄いなお前。覚え早すぎ」

「そんなことないよ。もっと頑張らなきゃ、ヒソカを一発殴るなんて出来っこないし……」

そこでゴンは目を伏せる。ヒソカとの試合にやはり少なからず不安を抱いている様子だ。
そもそもゴンがヒソカと戦いたいのは、四次試験のときの彼のプレートを返すため。詳しいことはルーシャは知らないが、一発でも自分を殴ることが出来たら受け取る、と言われているようだった。

「オレさ、前のルーシャの試合見たとき思ったんだ。オレはまだまだ弱いんだなって。今のオレじゃ、ヒソカに一撃お見舞いするなんて無理かもしれない。でも、少しでも強くなりたくてさ……」

俯いたゴンは力なくそう呟いた。珍しく消極的な彼に、ルーシャは首を捻る。

「んーまぁ正攻法では確かに難しいかもな……でもそれだけが戦法じゃないし、問題はどう工夫して戦うか、だろ?」

「工夫して戦う……か」

ルーシャの意見を素直に受け入れ、ゴンは工夫、工夫かぁ……とぶつぶつと呟いて考え込む。少ししてから、彼は何かを思いついたのか弾かれたように顔を上げた。その顔はいつも良く見る、満面の笑み。

「そっか……そうだよ!ありがとうルーシャ!オレ、頑張って考えてみる!」

すっくと立ち上がり、元気を取り戻したゴンはそう感謝の意を伝えて、部屋から出ていった。今の言葉で何かしらの策を思いついたらしい。
ゴンが出ていった扉に視線を向けたまま、ルーシャは彼が試合で出来るだけ重傷を負うことなく終わることを祈った。

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