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『さぁ今日は大注目の一戦です!破竹の勢いで勝ち上がってまいりましたゴン選手が、早くも登場!!
対するギド選手は、ここまで5戦して、4勝1敗とまずまずの戦績を残しています』

(…………は?)

翌日、飲み物を買いに売店へ向かったルーシャは、モニターから聞こえてきた実況の声に固まった。ゆっくりと顔を上げ、闘技場の様子を映したモニターに目を向ける。
リングに上がったのは、よく見慣れた緑色の服に身を包んだ黒髪の少年。
紛れもなくゴンだった。

「あいつまだ戦うなって言ったのに……」

ぎり、と歯ぎしりの音を立ててルーシャは闘技場へと走り出した。



□□□□



「だから言っただろーが」

「ゴメンなさい……」

右腕、とう骨、尺骨完全骨折、上腕骨亀裂、肋骨3ヶ所完全骨折、亀裂骨折が12ヶ所。
以上、ギド戦での負傷箇所、しめて全治4ヶ月。
ギド―――義足の男との試合は見ての通り、ゴンの惨敗に終わった。
そりゃそうだ、纏しか覚えていない状態で念能力者に挑むなんて自殺行為、まだ生きていただけマシといえる。ギドが念使いとして特に秀でた奴ではなかったのが幸いといった所か。

「何が『ゴメンなさい』だよ全く……」

「一体どーなってんだこの中はよ!?あ!?」

キルアがそう言って負傷してベッドに座っているゴンの額をつつく。

「何回か攻撃を受けてみて……まあ急所さえ外せば死ぬことは……」

う、と冷や汗を流しながら申し訳なさげに、しかし弱々しくもゴンは言い訳じみた事を言った。
おい、コイツ懲りてないぞ。
そう心中で呟いた直後かまされたキルアの一撃。
振り返った彼と私は目を合わせて同時に親指を立てた。よくやったキルア。
怪我の上から更なる衝撃に悶絶しているゴンの声と同時に、ノックの音がドアから聞こえる。その来客の知らせに私は入り口まで歩きドアを開けた。

「あ……」

見覚えのある眼鏡の男に、そう声を漏らした私は彼を部屋に招き入れた。

「ウイングさん」

つい先日二人の念を開花させたウイングさん。たぶん彼も同じく直ぐには戦わないように念を押した筈だ。部屋の扉を開けた時のウイングさんの表情ですぐに分かった。
ゴンが彼との約束を破ったのだと。

「あ…その、ごめんなさ――」

パン!と乾いた音が響き、ゴンの声は途切れる。
部屋の空気が一瞬止まり、そして直ぐに動き出した。

「私にあやまっても仕方ないでしょう!!一体何を考えてんですか!!」

そう一喝したウイングさんは普段の穏やかさはどこへやら、厳しくゴンを叱りつける。
まあゴンがしたことを思えば当然といえば当然だ。しかしこんな風に真剣に彼をたしなめてくれるウイングさんは、教育者としてはとても良い人かもしれない……私はぼんやりとそのやり取りを見ていて思った。

「今日から2ヶ月間、一切の試合を禁じます!念の修行、および念について調べることも許しません!」

一通りゴンを叱った後、ウイングさんは厳しい口調でそう約束を取り付けた。因みに全治4ヶ月にも関わらず2ヶ月なのはキルアがウイングさんに尋ねられた際、「全治2ヶ月」と鯖を読んだせいだ。
そう言うところ抜かりないのは流石キルア。
これを見て常に約束を忘れぬように、とゴンの指に結びつけた紐は、恐らく私がハンター試験中に着けていたのと似たようなもの。
それを真剣な顔で眺めるゴンを余所に、私とキルアはウイングさんに呼ばれ部屋から出た。

「君達の本当の目的は何なのですか?」

廊下へ出るなり問われた一言に私たちは顔を見合わせた。
目的と言われても最初とはかなり主旨が変わってきているし一概には言いづらい。どう伝えるべきか迷った私に代わり、キルアは簡単に今までの経緯を伝えた。

「ズシとあんたにあわなきゃ、オレはこづかい稼ぎだけのつもりだったし、ゴンはヒソカって奴と戦うために武者修行に来てる。ルー姉は……つき合い?」

「なんで疑問系?」

「いや別に。……まあ、それだけだよ。200階クラスのほとんどは最上階が目的らしいけど……バトルオリンピアだっけ?オレはあんま興味ないね」

「あれ?お前ら最上階狙いって言ってなかったか?」

「聞いて無かったのかよルー姉。オレたち最上階の秘密は分かったからもーいいって言ってたじゃん、受付でさ」

「そうだっけ?」

受付……って試合システムの説明してた時か。あん時は疲れてたから二人の会話が耳に届いてなかったのかもしれない。
でもバトルオリンピアの方は聞き覚えがある。2、3?年に一度、最上階で開かれる格闘家の祭典だ。たぶん。

「えー何興味なさげにクールぶってんだよキルア。面白そうじゃん」

「ルー姉なら言うと思ったぜ。それにあいつも……ゴンもな」

ウイングさんの表情は固い。
何か危機感を覚えたようなそんな顔。
キルアは続ける。

「あいつ口ではヒソカと戦えればそれでいいとか言ってるけど、昨日の試合のやり方……あれは―――スリルを楽しんでるみたいだったからな」

キルアのその台詞に、私は昨日の試合を頭の中で回想した。
ギドの独楽を避けるのに気配を追うと纏がおろそかになってしまうのを悟ったゴンは、ひとつだけに集中した。
即ち纏を完全に解き……更に身体周りのオーラを完全に消す。
独楽の気配を確実に感じとるために。
あの時ゴンの頭にあったのは“まだ戦いたい”、それだけだったと思う。相手は自分より格上、どう足掻いても負けるだけ。それならどんなことになっても今やれることをやって出来るだけ長くリングの上に立つ。

それが例え命を落とすことになっても。

最終試験の時も思ったけど、ゴンは明るく無邪気な性格の反面、何処か頭のネジが飛んでいるような突飛な行動にでる時がある。
恐らく言葉で端的に表現するなら“イカれてる”、かな。最初彼を見たときはそれとは正反対の人間だと思っていたけど、第一印象があてにならないって本当だな。
ウイングさんもそれを感じたのか微かに冷や汗を流しながらキルアの言葉を繰り返す。

「命さえ落としかねなかったあの状況を楽しんでいた…と?」

「ああ。オレもそゆことないわけじゃないからわかるんだけどさ。オレなら時と場合と相手を選ぶけど、あいつは夢中になったら見境なさそうだしな」

あ、でも同じ約束を二度やぶるような奴じゃないから大丈夫!、と付け足してキルアは笑った。
しかしウイングさんの表情は晴れない。それどころか更なる焦りを浮かべている。

「もう、遅いよ」

キルアは真剣な表情で呟く。その場の空気が張り詰めた。

「もう知っちゃったんだから。オレもゴンも。教えたこと後悔してやめるんなら、他の誰かに教わるか自分で覚えるかするだけ」

「私が教えてもいいですしね」

どうやら彼は二人の才能に少し恐れを抱いていたらしい。念を教えた事を後悔しているようには……見えなかったけど、確かにコイツらの実力を目の当たりにしたら普通ならそう思うか。
でも彼は降りる気はない、そう伝えてキルアも修行するように誘った。どっちみち協会の人間として二人を放っておくことは出来ないだろう。

「いや、いいや。ぬけがけみたいでやだからさ。ゴンが約束守れたら一緒に始めるよ」

ウイングさんの言葉に背を向けたキルアはそう呟いて部屋へと戻った。

キルアも、少しずつだけど変わってきてる。
ゴンの影響かもな。あいつの底抜けた明るさは私も時々見ていて眩しくなる。
その分、あの危うい明るさがいつ失われることになるのか不安ではあるのだけど。
キルアの背中をしばらく眺めた後、ウイングさんは今度は私に声をかけてきた。

「彼らは……素晴らしいですね、恐ろしいほどに」

「そうですね。でも、きっとあいつらはもっともっと強くなる。伸び代は大きいですよ」

キルアの背を見ていた視線をウイングさんに戻す。やっぱり正直あの二人がどんな成長を見せるか嬉しい反面、怖いのだろう。とんでもないものを呼び起こしてしまったような表情をしていた。

「そんな顔しないでくださいよ。念の指導をするのは元々そういう予定で……」

しかしその中に潜んでいたものがちらと見え、私は言葉を途切れさせる。
形は違うものの、ギド戦で戦っていたゴンと同じような―――興奮。
私は溜め息を一つつき、軽く会釈してその場を去った。
ハンターって、みんなどこかしら頭がトンでる奴らばっかなんだよな。

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