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「諸君。タワー脱出おめでとう。残る試験は四次試験と最終試験のみ。四次試験はゼビル島にて行われる」

脱出したタワーから移動した船の上。現れた三次試験官――リッポーは最初にそう告げて、受験生たちをにやりとした笑みで見回した。
一次試験開始時には400人を越えていた受験生は、今では25人に減り、残っているのは毎年の常連や手練れ、そして今年は珍しく多いルーキーたち。彼らの纏う雰囲気は一様に同じく、緊張感のある鋭いものだった。

そんな受験生の前に運ばれてきたのは穴の空いた、クジ引きなどで使う箱。
リッポーは運ばれてきた箱からクジを引いていくように指示した。順番はトリックタワーの到着順によって決められているらしく、一着のヒソカから一人ずつ名前を呼ばれ、クジを引く。

全員が中にあったカードを手にしてから、リッポーは説明を始めた。

「このクジで決まるのは、狩る者と狩られる者だ」

「今皆さんがそれぞれ何番のカードを引いたのかは全てこちらの方で記載されています。従ってそのカードはもう各自処分して貰って構いません」

隣にいた助手役らしき女が言う。リッポーは説明をそのまま続けた。

「諸君が奪うのはターゲットのナンバープレートだ。そして四次試験を通過するためには、6点分のプレートを必要とする。四次試験では各プレートに点数が決められている」

今決定したターゲットのナンバープレートは3点。自分自身のナンバープレートも、3点。
つまりターゲットのナンバープレートを奪い、自分のナンバープレートを守り通せば四次試験は合格だということだ。
因みに、ターゲット以外のナンバープレートは1点。これで6点分稼いでも構わない。

「フィールドはゼビル島全域、どのような方法でも良い、6点分のナンバープレートを集めるのだ」

その言葉と同時に、周りの空気が張りつめ、受験生の目が一層鋭くなった。



□□□□



「ターゲット捜すの面倒くさいなー……。順番が早ければ待ち伏せできたんだけど、まさか一番最後なんて思わなかったし」

ぶつくさと喋りながらルーシャはゼビル島の森の中を歩いていた。
彼女の言葉通り、受験生の中でルーシャは一番最後に島へ足を踏み入れた。既に先に入った者たちは自分のターゲットを追いかけているようで、周りには人気は全くない。

否、気配は感じられた。

(私を狙ってる奴か?別に相手してもいいけど……)

気配は三つ。
一つは受験生一人一人についている試験官だとして、後の二つは恐らく他の受験生。

ルーシャは走った。最初は後ろの者たちが追い付ける程度のスピードで、それからだんだんと速く。
一人、彼女に追い付けず立ち止まった。そこで徐々にスピードを緩め、元のように歩き始める。眼前に澄んだ湖が広がった所でようやく足を止め、彼女は振り返って着いてきた者に声をかけた。

「プレート献上しに来てくれたんなら喜ぶけどさー……いい加減にストーカーは止めてくれマジで」

「早いね◆少しビックリしたよ」

「うっわ本当に予想通りの奴が出てきた……」

すぐそばの木の上から降りてきたのはヒソカ。なんとなく気配で分かっていたルーシャは、彼が降りてくるとそう呟き一層嫌そうに表情を歪めた。そのまま視線を合わせず、彼女は尋ねる。

「お前のターゲットって私か?」

「いいや、違うよ◇これ、誰か分かるかい?」

(いいのかよそんなすんなり渡して……)

そう言ってあっさり彼はターゲットが書かれたカードを渡してきた。
が、知っている番号ではない。そもそも周りの受験生のナンバープレートなど、自分のターゲット以外面倒くさがっていちいち見ることをしなかったのだ、覚えているわけがない。

(私を狙ってたのはさっき撒いたやつか……。どっちにしろコイツじゃなくて助かった)

「知らねー」

「そう◇まあ適当に狩る方が面白そうだしいいか◆」

舌なめずりをして目を細めるヒソカを見ないように視線を背けるルーシャ。とにかく早くここから離れよう。そう心中で呟き腕を擦りながら無愛想に言葉を投げつける。

「で、何」

「どうせならキミとヤりあいたくてね◆」

「無理。却下。だいたい念能力なしでお前に挑むのは自殺行為」

「おや、初めて念使いなのを認めたね◇」

「どうせ分かってたんだろ?私が念を使えることくらい」

「なんとなくだったけどね◆でもそれじゃあ仕方ないか……」

(よっし回避成功!万歳!)

諦めを見せた所で早速ルーシャは彼に背を向ける。じゃあな、と挨拶もそこそこに去ろうとする彼女をちょっと待ってよ、とヒソカは引き留めた。そのまま無視することも出来たのだが、律儀にもルーシャは振り返った。とてつもなく鬱陶しそうな顔をしてはいたが。

「因みにルーシャのターゲットは?」

「言うかそんなこと」

「ボク……ではないよね◇」

「ああ」

もしルーシャのターゲットがヒソカであったとしても、絶対に他のプレートを狙うだろう。これ以上話しているのも面倒なため、事の真意は告げずにルーシャは踵を返した。しかし再び後ろから呼び止める声。苛立ちを感じながらもう一度振り返ると、いつも以上に気味の悪い笑顔でヒソカはこちらを見ていた。

「なんだよまだ何か用かよ」

「忘れ物◆」

ヒソカが言いながら何かを投げた。手のひらに収まるサイズのそれを受け取った時、ルーシャは思わずげっと声を漏らす。
右手に握られたそのカードは、彼女がクジで引いた、294と書かれたナンバーカード。恐らく念能力で知らない内に抜き取られたのだろう。

「知ってるなら聞くなよ鬱陶しい……」

「奇術師は何でもお見通し◇って言ってみたかっただけなんだけどな◆」

何それやる必要あったの?
そう思いはしたが、ヒソカに返事をする気力もなくしたのか、ルーシャは肩を落とし足取り重くよろよろと森の中へ進む。
後ろから見送る自称奇術師の視線は、完全に姿を消すまでこちらに向いていた。

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