1/3

結局。
第七試合で受験生を殺そうとしたキルアは審査委員会に不合格と見なされ、今年のハンター試験の合格者は私含め九人となった。
あの後キルアとは直接会わなかったが、どうやら彼は一旦家へ帰ったらしい。
イルミがあんな風にキルアを説得したことは未だに納得はいっていない。いつまでもアイツを家と自分から逃げないように縛り付けて、脅して、怯えさせて、彼から初めてだった“友達”を奪って。

腹立たしいことこの上ないが、しかし状況が結果的に良い方向に転がったのは確かなのだ。何一つ言わずに家を飛び出すよりは、一度ちゃんと話し合って堂々と家を出ていく方がいいに決まっている。その説得をしにいったと思えばそれほど落ち込むものではない。
キキョウさんやイルミは全力で止めるにかかるかも知れないけど、シルバやゼノさんなら、話せば分かってくれるはずだ。……たぶん。

後日、合格者たちは別室に集められ軽い講習を受けた。途中キルアの不合格についてのクラピカとレオリオの抗議やゴンの乱入により講習は一旦中断されたけどとりあえずは終わった。
今は新しく貰ったハンターライセンスを手に、私は飛行船である場所へと向かっている。

『ククルーマウンテン。この頂上に、俺達一族の住み家がある……と、そうだルーシャ、親父から伝言。ハンター試験が終わったらここに来るようにってさ』

『……は?何コレ、パーティーの招待状じゃん。しかも結構大きな』

『飛行船止めてあるからそれで来てって。ドレスも置いてある』

『どういうこと?』

『オレもよく知らないけど。とにかく伝えたから』

まあ伝えるだけ伝えてアイツは去っていった訳だが、とにかく呼び出されたからには一応行かなければならないので、師匠に念封じを外してもらい着替えてから、私はゾルディックの私用飛行船へ乗り込んだ。

『オレたちは直ぐにキルアの家に行くけど、ルーシャはどうする?』

飛行船に乗る前、そうゴンたちに聞かれたのでパーティーが終われば久々にゾル家にお邪魔するつもりだ。でもあの家、外部から入ってくる人間には容赦ないけど大丈夫かな……?
遠ざかっていく協会本部を見ながら、私は小さく溜め息をついた。



□□□□



二日後の夜、某パーティー会場にて。
一人の女が怒気を放って仁王立ちしていた。
赤いドレスに毛皮のストールを羽織り、長い金髪を結い上げたその姿は一見派手な印象を持たせる。しかし彼女の容姿が端麗であるが故、そのドレスは見事な程に女に似合っていた。

「用意した奴誰だよ……」

だがそんなせっかくの艶姿は、女が放つ凄まじいオーラで台無しになっていた。元々つり目がちの瞳が更につり上がる。周りの者は女の美しさに一瞬目を向けるが、同時に彼女から放たれる覇気を感じ取って無意識に離れていったのだった。

「ルーシャ、」

「……あ!シルバさん!」

ルーシャと呼ばれた女は後ろから声をかけられ振り返った。その先には長い銀髪を項で一まとめにした端正な顔立ちの男。シルバと呼ばれたその男は悠々とした動作で彼女に歩み寄る。動物の王者であるライオンを思わせるどっしりとした出で立ちと逞しい体つきは、今は黒い燕尾服に身を包んでいた。

「なんかその格好新鮮だな」

「この息苦しさは慣れんな。お前の方は中々似合ってるようだが」

「そりゃどうも……ってそうじゃなくて!!これ誰が用意したんだ!?こんな露出多い派手なドレス信じらんねー!!もっと良いやつあっただろ!!」

一気に言葉を荒げるルーシャをどうどう、と両手をあげシルバは宥める。どうやら彼女が怒っていたのはそのドレスについてのようだった。

「それは珍しくイルミが選んでいたものだな」

(アイツか……!!)

恐らくわざとそういったデザインのドレスを選んだのだろう。無表情ながらに鼻で笑うイルミの顔が浮かんできたルーシャは額に青筋を立てる。しかし今ここで怒りを目の前のシルバにぶつける訳にはいかず、彼女はどうにか気を落ち着かせた。

「怒ってるだけじゃなくて、色々と困るんだよコレ。今は毛皮で隠してるからいいけど……背中が開いてるから刺青が微妙に見える」

「クモの、か?」

「ああ。場所が場所だけにな。一応ファンデーションでなんとかしてるけど、ちゃんと隠れてるかは分かんねーな」

彼女の背中の右、ちょうど肩甲骨の右下辺りに刺青はあった。幻影旅団員の証であるこの12本足の蜘蛛は、鏡で見える度に今でも顔をしかめてしまう。
ほんの少しだけ表情を曇らせたルーシャに、気を晴らすようにしてさりげなくシルバは話題を変えた。

「そういえばお前、キルアに刺された腕は平気なのか?」

「ああ、そっちは全然大丈夫。元々脱臼してて使えなかったし」

左腕を目の高さにかかげながらルーシャは言った。手袋の下には包帯が巻かれているが、彼女はむしろ四次試験で負った怪我の方を早く治したいらしい。

「キルアのことちゃんと見てやれよ、シルバさん。部外者の私に言われたくなければな」

「いや……その通りだからな。帰ったらあいつの話をちゃんと聞いてやるつもりだ。時にルーシャ、」

「なんだ?」

改まった様子でシルバはルーシャをじっと見た。普通なら鋭い視線に射抜かれるような錯覚を覚えて恐怖するところだが、慣れた彼女は特に怯えることもなく首を傾げてシルバの目を真正面から見つめた。

「キキョウがいない時は呼び捨てで呼んで良いと言っただろう」

「はぁ?もっと深刻な話かと思ったのに改まって言うのがそれかよ。あとその言い方止めろ、社員に内緒で社内恋愛してる上司と部下みたいだから」

「例えが具体的すぎるぞ。それにお前にさん付けで呼ばれると若干気持ち悪い」

「我慢してくれ、この前キキョウさんに滅茶苦茶怖い顔で迫られてから気をつけてんだ、些細なことで呼び捨てしないようにな」

「バレたのか、あいつに」

「だからその言い方止めろまた勘違いされる」

きらびやかなパーティー会場で一組の男女が静かな漫才を繰り広げる中、夜は更けていった。

- 32 -
[前] | []

戻る


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -