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「お前はこのゾルディック家の後継者なのだから」

この言葉を何度聞いただろう。
いつものように毒を喰らい電流を浴び、拷問を受ける毎日。
痛い、辛い、もう止めたい。
そう言っても返ってくる言葉は全部同じだった。

『もっと頑張りな。お前はいずれこの家の当主になるのだから』

親父や兄貴に良くできたと言われ、お袋に素晴らしい才能だと誉められ、一族に後継者だと認められても、嬉しいとは思わなかった。
ただ、あったのは拒絶。
もう嫌だ。鬱陶しい。面倒くさい。
家族に決められて過ごす毎日、家族に決められて生きる人生。
そんな風に思っていても抵抗などできるはずもなく、オレはただただ血を浴びて目の前の“仕事”をこなし続けた。
仕方ない。
仕方ないんだ。
そう自分を無理やり納得させ、ひたすら人を殺して、殺して。

「生意気そうなガキ」

その頃だった、ルー姉が家にやってきたのは。
初めて会ったのは確か八歳か九歳といったところだった。親父に呼ばれて部屋に入ると、親父の隣で見知らぬ女が立っていた。

そしてさっきの一言。

そいつはふてぶてしい態度で腕を組んでオレを見た。整った顔立ちではあるけど、勝気そうな鋭い眼光と気迫のようなものが、こいつが普通の一般人じゃないことを物語っていた。
家族と家に仕える執事以外の人間が屋敷にいる所をみるのは初めてだった。しかも開口一番に生意気発言。
生意気はお前だ、このゾルディック家に何の用だよ。

「こいつが私に相手してやってほしいっていうお前の子供か?」

「ああ、よろしく頼む」

「ふうん……。オイガキ、名前は?」

「…………」

なんか気に食わない。
親父にも慣れ慣れしいしオレにだっていきなり暴言吐くし。

「何様のつもりだっつの…」

ぼそりと聞こえないようにそういったつもりだったんだけど、女の耳にはしっかり届いていたらしい。ピクリと目元を動かしたそいつは、一瞬黙って、それから何かを含んだようなにやりとした笑みを見せた。

…………って!?

「いってててて!?」

「生意気なガキだな、人に名前を聞かれたら答えるのが常識だろーが、あ?」

コイツいきなり何しやがんだ!!
女はオレのこめかみを拳骨でぐりぐりと押した。なんだよ、兄貴並みに痛いってどういうことだ!!あまりに唐突だったためオレは「痛い!痛い!」と泣き叫んだ。

「オイ止めろルーシャ!」

「うるせェテメーが相手しろっつったんだろが、シルバ」

「だからといってむやみやたらに暴力をふるうんじゃない!!」

その言葉に舌打ちをしながらもようやく女はオレの頭から手を離した。こめかみが痛くてまだ涙目。畜生、オレコイツ嫌いだ。

「……で?名前は?」

「まっ、まず自分からっ……ぐすっ、名乗るのが常識だろ!」

目尻を拭きつつなんとかそう答えた。またぐりぐりされるかと構えたが、ふん、と鼻で笑った女は必然的にできる身長差を利用してかオレを見下ろす。

「威勢だけは一人前だな。……まあ一理あるから名乗っておく。私はルーシャ。今日からお前の格闘技術訓練を指導することになった。以後よろしく。さ、お前の名前は?」

ルー姉の第一印象は、最高に高圧的で口の悪い我儘ヤンキー女だった。

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