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「もしもし◆……おや、キミから電話なんて珍しいじゃないか◇」

「………………酷いなあ◆それで?…………へえ、面白そう◇いいよ、引き受ける」

「…………ちょっと、ボクのことなんだと思ってるんだい?今回はたまたまだよ◇」

「…………依頼料?そうだね……キミと一度ヤってみたい……って、切ることないのに◇」



□□□□



オレは喫茶店で約束の人物を待っていた。無意識にとんとん、と規則正しくテーブルを叩く指が、自分の苛立ちを露にしている。
自業自得なのは分かっているけど、よりにもよってアイツに頼むことになるなんて。なんでこんな時に限ってクロロは連絡つかないんだろ。あの優男なら程々に役をこなしてくれるのに。
いや、今呼びだしてる奴も依頼の成功率でいえばクロロよりも確実かもしれない。けどアイツの場合それ以外にも余計な厄介事を運んできそうで嫌なんだよね。

そうこう考えている間に奴――ヒソカは軽く手を振りながら現れた。
久しぶりに会ったヒソカは相変わらず変態だった。今日の仕事のことを話している間もニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべて標的と自分の戦う様を夢想していた。本当に気持ち悪い、やっぱ探しだしてクロロに任せようか。

「まあそう冷たいこと言うなよイルミ◇キミ一人じゃ難しい仕事だろ?聞くところボクにぴったりだし◆」

「本当、なんでこんなタイミングが悪いんだろ。じいちゃんも親父もいない時に限って……お陰でヒソカに頼まなきゃいけないはめになった」

「自分から頼んだんだ癖にその言い草は酷いなあ◆ま、こっちはこっちでいい都合ができたんだけどね」

また何か企んでいるらしい食えない笑みは、もうすっかり見慣れたもの。どうせ新しい青い果実とやらでも見つかったんだろう。あっちの事情を追求する必要はないし寧ろ面倒くさいのでオレは黙ってそれを聞き流す。

「話は終わり。これ、標的の写真だから。それじゃ頼んだよ」

一方的に話を終わらせて席を立った。
名残惜しげな目線がすごく勘に触ったけど、無視してオレはそこを立ち去る。
雑談でもしたかったんだろうけど、オレは次の仕事があるから忙しい、構ってる暇なんかない。ヒソカについては頼んだことだけ正確にやってくれればいい。余計なことをやらかさないか、それだけが心配だけど。
一抹の不安を抱えながらも、オレは次の標的の元へと向かうため、私用船に乗り込んだ。……ヒソカが殺っちゃう前に早く帰ってこないと。



□□□□



今回の標的は魔獣、サキュヴァン。
食料は主に人間の血液。姿形はほぼ人間と変わらず、普段は愛らしい少女の姿をしている。美しい容姿と言葉で男を惑わし血をすするのだが、その魔獣により依頼人の部下が何人も犠牲になっているらしい。
とある闇企業の社長を勤めている依頼人は、必死になってその魔獣を探したという。
女にうつつを抜かして社員が命を落としたなどというあまりにも情けない事実が明るみに出てしまえば、同業者に馬鹿にされ舐められるのは目に見えている。
できるだけ自社内だけで片付けようと使える者を総動員して情報をかき集めたのだが、収穫はその魔獣の容姿のみと、数人の骸と化した部下たち。
これ以上魔獣捜索に人員を割く訳にはいかないと、そこでやむなくゾルディックに仕事を依頼したとのことだ。
依頼人の持つ情報とゾルディックの情報網を活用すると、目当ての魔獣は直ぐに見つかったらしい。ヒソカはたった今聞いたイルミとの会話を思い出した。

『普通なら絶対そこで殺れるはずだったんだけどね。ちょっと事前情報が足りなかったんだ』

結果的に、イルミはその時標的を殺すことができなかった。
相手が気づくほどの殺気を漏らすようなヘマはしていない。にも関わらず、イルミが音もなく投げた鋲を魔獣はあっさりと避けたのだ。攻撃されていると分かった瞬間、魔獣はその場から姿を消していたという。

『……で、ミルキに聞いてみたら“そりゃ仕方ない”だって』

イルミより高い情報収集能力を持つ弟によると、稀に“敏感な”サキュヴァンというのが存在するらしい。といっても危機察知能力が格段に高い程度で、細かいことが分かるわけではないそうだ。

『周りの様子に敏感ってことかい?』

『そのレベルが人間と違うらしいよ。よく分かんないけど自分に敵意があるか否かの判断力はかなり高いって』

『なるほど、だからイルミのちょっとの殺気でも気が付いて逃げたってワケか◇』

『オレはもう顔を見られちゃったし、標的に近づくために仲良くなるフリなんかもできない。生憎他の家族は仕事行ったり旅行行ったりでいないんだよ』

(家にいないって……旅行だったのか◆案外暗殺一家も呑気だな)

少々失礼なことを考えているヒソカに構わず、イルミは話を進めた。
なんとかして魔獣と打ち解けて、隙を作ってくれれば後は自分が片付ける。そう告げられた言葉にヒソカは残念そうに眉尻を下げた。

『どうせならボクにヤらせておくれよ◆』

『それはダメ。仕事は仕事だから』

『真面目だよねェ、そういうトコ◇』

『ま、ヒソカなら演技もできそうだし標的と親しくなることも簡単でしょ』

『分かった◆やってみるよ』

帰ってくるまでに魔獣を先に殺られてしまわないかイルミは心配していたようだが、目の前に獲物がぶら下がっている状態で我慢するなど、今まで何度もしてきたことだ、心配ない。
そう説明しても、イルミは今一つ納得しない表情のままだった。仕事のこととなると慎重になるのは、彼の良いところでもあり悪いところでもある。
最短で三日。それまでにはここに帰ってくると告げ、イルミは去っていった。

テーブルの上に置かれた写真をぼんやりと眺める。小さな紙に写し出されたその少女は、白いフリルとピンクのリボンが似合いそうな、まさに西洋人形と形容すべき可愛らしい少女だった。華奢な体躯に大きな青い瞳が一際目を引く。顔の横で緩くカールされた髪は、柔らかそうな栗色だった。

「こんな可愛い顔して、怖いねえ◆」

ククク……と不気味な笑みを人知れず漏らすヒソカ。一見純真無垢に見える少女の写真を持ち笑い声を漏らす彼は、端から見ればかなりの変質者に見えただろう。実際あまり変わらないが。

(ルーシャとは、正反対だな◇)

しかし、その姿を目に焼き付けるのとは反対に、ヒソカの頭には毎日見ていた金髪の女の姿が浮かんでいたのだった。



□□□□



「さあお嬢さん、どうぞ◇」

「は、はいっ!」

少女が男のもつシルクハットを手にする。その瞬間、白い鳩が次々と溢れ出した。羽を散らしながら空へ飛び立ったかに見えた鳩は、空中を旋回して少女の肩へと舞い降りる。
観客の歓声と拍手を受け、男―――ヒソカは恭しく一礼し、手から可愛らしい桃色の花を出した。きょとんとした表情の彼女には構わず、柔らかい色の髪に花を緩く差し込む。可憐な雰囲気を纏うその少女に、花は良く似合っていた。

「コレはキミへプレゼント◆」

「あ、ありがとうございます!」

「ふふ、礼儀正しいお嬢さんだね◇」

ぎこちなくお辞儀をした少女の髪が風に揺れる。はにかんだその表情は周りにいた観客をも魅了した。
路上でのショーを終えたヒソカはてきぱきと機材を片付け始めた。嬉しそうに花を見つめる少女は、未だヒソカの傍らに佇んでいる。「今日はありがとう◆」と微笑んで頭を撫でてやると、大きな目を更に見開いて頬を染めた。
どうやらファーストコンタクトでの印象は上々らしい。だがこの程度ではまだ顔見知りになったとは言い難い。もう少し距離を縮めておきたい所だ。
荷物を纏め終わったヒソカが立ち上がって振り返ると、可憐な佇まいの少女は綺麗な笑みを浮かべて未だこちらを向いていた。

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