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扉を、閉めた。

「……………………」

いや、ないな。今のは疲れてて見えた幻覚だ。だってどうやって協会本部の、しかも結構奥まったこの部屋までバレずに辿り着ける?いくらヒソカでも無理無理。ありえない。
扉の前で一つ、深呼吸。

「なんで閉めるんだい◇」

扉を、閉めた。

「……………………」

オーケー、現実逃避はもう止める。どんな方法を使ったかしらないけど、とりあえず部屋の中にはヒソカはいる。うん、認めよう。凄いね私、進化したよ!
問題は前回の別れ際がその……あんなだったから顔を合わせづらいのだ。
もう一度だけ、深呼吸。
扉に手をかけて―――

「早く入りなよ◆」

「っ〜〜〜!!」

いきなり開けるなよ!そんで勝手知ったるな感じで私を部屋に招き入れるな!ここ私の部屋!!
そんな心の叫びも聞こえるはずもなく、腕を掴まれ部屋の中に引き入れられる。ばたん、と扉が閉まった後、切れ長の相貌が私を貫いた。
いや……いやいや何押されてんだ私は。
ヒソカに悟られぬよう小さく呼吸を整えて気を落ち着かせる。とにかく自室にこいつがいるという今の現状をどうにかしたい。
要件だけ聞いてとっとと追い出そう。

「何の用だ?」

「何の用って……キミだって分かってるだろう?“責任をとってもらう”って言ったじゃないか◇」

「分かんねーから聞いてんだろーが」

私が不満気に呟くと、「それわざと言ってる?」とヒソカは肩を竦めた。

「ボクさ、結構本気でキミのこと好きみたい◇」

「へえそうなんだー」

いつも通りのふざけた口調が崩れることはない。全く態度を変えずにヒソカが吐いた軽い台詞に同じく軽い言葉を返すと、不満げに眉を潜めた奴がずいと顔を近づけてきた。

「本当に本気なんだけど◆」

「いや、別に疑ってるなんて言ってないじゃん。……あ、因みに私はお前が嫌いだ」

「……へえ、そうなんだ◆」

さっきの私と全く同じ言葉で、奴はそう返した。これだけはっきり嫌いだと言われたにも関わらずヒソカの表情は変わらない。大して気にしてもいないんだろう。コイツは相手に嫌われていようが何だろうがとことん付きまとう奴だ。
私にそこまで執着する理由はよく分からないけど。
この間のアレもどういう思考の末にああなったのかが謎だし……ん?ってことは私はこれからコイツに四六時中ストーカーされるってことか?
とにかくヒソカが私をどう思っていようが今ここに、コイツは居てほしくない。それだけは確かだった。

「さっさと帰れ」

「それは断る◇ボクはキミと一緒にいたいし◆」

「うわーすごく鬱陶しい」

「まあそうツレないこと言うなよ◇」

「え、ちょ……」

私の肩に大きな手が触れ、びくり、と身体が強張る。いつも反射的に上げていた手が何故か動かない。その間にヒソカは私の腰に手を回し、自分の身体と密着させてきた。

「ホラ、なんだかんだと言ってもキミだって……っつ!」

金縛りのように固まった身体を無理やり動かし、ちょうど目の前にあった奴の顔に頭突きをかました。それに呻いて身体が離れた隙に、思い切り突き飛ばして部屋から放りだす。「あ、もう◇」などと気持ちの悪い悪態をつきつつも大人しく帰る気になったらしく、抵抗せずに奴は廊下へと出ていった。

途端に騒がしかった私の部屋も静かになる。広い空間で、心臓の鼓動がやけに大きく聞こえた。

「……………………はぁーーーっ」

30秒ほど様子を見て入ってこないのを確認してから、その場に座り込む。

変だ。
今まで多少照れていた程度だったのに、なんかさっきのは違った。馬鹿か私は。あんな軽い言葉に、ほんのちょっとした動作に動揺するなんて。
あの時と一緒だ。ヒソカと戦った後、目が覚めた病室でのアレ。
壊れるんじゃないかと思うほど心臓が動く音と頭全体が熱く沸騰する感覚。それがどういった時に起こるのか、そんなの私だっていくらなんでもすぐに分かった。

だけど知らない、分からない。

「くそ……負けるか」

アイツの思うつぼにはいかせるか。絶対に認めねえからな。

固く誓ったその気持ちとは裏腹に、頬の熱は中々冷めることはなかった。

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