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実はさ、ちゃんと言えてないんだ。
ルー姉がヒソカと戦うのが嫌な理由。
あ、アイツに憧れてるのはホントだぜ?理想を捨てろ、なんて言われたけどそれでも憧れは憧れだし。……なんか言ってて恥ずかしくなってきたな……笑うなゴン!
でもそれが一番じゃないんだ。
前な……つっても2年くらい前かな、偶然イル兄とルー姉が喧嘩してるの見てさ。まあそのころはオレも念の存在知らなかったわけだし?二人ともそりゃすっげー怖くて怖くて。
だけど、それだけじゃなかったんだよ。イル兄が怖いのはいつものことだったんだけど、ルー姉はその時からオレにはなんだかんだで優しかったんだ。
すぐぶつし、乱暴だし、男女だったけど、でも優しかった。
だから余計にだったんだ。
イル兄と本気で殺しあってたのは見てたら分かったし、ああヤバい、とは思ったんだけど……それより、いつも笑ってるルー姉がさっきみたいに……ああなってるのが、すごく怖かった。
情けねーよな、オレあの時10歳くらいだったけど、それでも一応プロの殺し屋やってたんだぜ?それが殺気にあてられたなんてさー……。
結局その後ルー姉の方がオレに気づいて喧嘩は中止。あのままいってたら絶対どっちか死んでただろうしよかったけどな。

オレがいることに気づいた時さ、ルー姉……泣きそうな顔してたんだよ。なんていうか、怯えてるような、気まずそうな……そんな感じ。
その顔でさ、「驚かせて悪かった、ゴメンな」って笑うんだよ。
無理矢理空元気出すみたいに。

あれが忘れられねーんだよなー……。
もう見たくない、あんな顔。
……そ。まあ戦ってる時のルー姉も滅茶苦茶怖いから見たくはなかったけど、それ以上に、な。
だから正直、このあとアイツには会いたくないんだよな。分かるからさ、「ゴメン」って言って自分を責めるの。

……ああ、怪我も心配だけどな。
え?……あ、確かに。今審議中だろ?何しろ見えた奴が審判どころか会場で一人もいなかったらしいしな。
ま、ルー姉には悪いけど勝ち負けは今はどうでもいいや。

え……いや、でも―――。
…………そっか、そうだよな。悪ィゴン。オレが馬鹿だった。っておい、いきなり行くのか!?おい、待てってゴン!!



□□□□



『えー、お伝え致します。本日行われたルーシャvsヒソカ戦ですが、映像で確認を行なったところ、両者同時に失神していることがわかりました。しかしお互いの負傷具合、ポイント加算を考慮した結果……勝者はヒソカ選手と決定いたしました。ヒソカ選手、これで10勝となり、フロアマスター挑戦権獲得となります』

「オイ、なんか問題でもあったのか?映像で確認って……」

「なんか試合終盤で、ルーシャの方が閃光弾放ったらしいぜ。威力最高の」

「はー成る程。しっかしはた迷惑な女だなーそいつ」

「必死だったんだろ。相手はあのヒソカだぜ?」

「ま、確かにそうか」

「しかもそのルーシャって奴、かなりヒソカと良い勝負してたらしいしな。あのまま調子良くいけば勝ててたんじゃないかって言われてる」

「げっマジ!?おっかねー」



□□□□



人形のような白い顔をして眠る彼女の横に、ヒソカはいた。
椅子に腰かけて未だ目覚めぬその顔を覗き込んだ。切傷と包帯だらけの身体は、肌が見えている場所が顔以外はほとんどなく、一目でかなりの重症だと分かる。
唯一肌が見える部分……頬を、ヒソカは壊れ物を扱うように優しく撫でた。

彼女を殺せなかった理由。
あれから三日、ヒソカは悩んだ。
奇術師、ヒソカが、だ。
らしくもなく悩み悩み、しかし行き着いたのは結局あの時――――彼女が最後の一撃を放った時に感じた気持ちと同じだった。

「ホント、やんなっちゃうよ……◇」

泣き言、いや不満を漏らすような腹立たしげな声は、自分自身に向けられたものだった。あそこまでヒソカを満足させてくれる逸材はそういないのに、もう彼女と闘り合うことも出来なくなってしまったのだから。
血に濡れながらも立ち上がる彼女の姿を思い出す。あれほど恐ろしく、凶悪な相貌で自分に向かってきたにもかかわらず、ヒソカの瞳には彼女が酷く儚く見えた。
自分の身が傷つくのも構わず、まるで狂ったように何度も繰り出された強力な攻撃。それを受ける中、彼が感じたのは積み上げた物を崩す快感ではなく。

「守りたくなっちゃうなんて、ね◇」

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