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「さあーいらっしゃいチケットあるよ!!ゴン対サダソの一戦!今買っとかないと後悔するよー!!」

ぴたり、とルーシャの足が止まる。珍しくゴンとキルアの修行に付き合おうと、ウイングの宿に向かっていた途中で聞こえてきたその声。

「最初から約束は守る気ゼロだったって訳か……」

とりあえず購入したゴン対サダソのチケットを握り、彼女はぽつりと一言呟く。チケットに書かれた日付は、5月30日。ウイングに指定された戦闘日より幾日か早い日程だ。
何故あれだけ頑なに戦わない、と言っていたゴンがあの三人に言われるまま戦闘日を早めたのか。ルーシャが抱いたその疑問は、彼らの修行が終わった帰りの道で解決した。

「ズシを人質に?」

どうやらズシを使い脅しをかけて、奴らは戦闘を受け入れさせたらしい。しかもゴンだけじゃなくキルアまで。

(プライドもクソもあったもんじゃねーな……新人、しかも子供相手に恥ずかしくないのかアイツら)

ウイングの許しは一応出たものの、ゴンもキルアも相当頭に来ているようだ。
特にキルアは、あの三人に何かしでかす気らしく、心配いらない、と一言呟いた。
穏やかな表情の中に確実に存在する冷たい眼光。その眼はかつてルーシャが良く見ていた、光のない虚ろな瞳。まぎれもない、暗殺者の眼だった。

ゴンと別れた後彼女はキルア、とだけ声をかけた。

「……んだよ、言っとくけど邪魔するなよ」

「誰が邪魔なんかするかよ。むしろ手伝ってもいいくらいだぞ?」

「………」

「もう止めるんだろ?そういうのは。だったら私が、」

「これは」

ルーシャの言葉を遮ったキルアの強い口調に、横を歩く彼の顔を覗き込む。

キルアは、笑っていた。
今度は後ろ暗さを感じさせない、本当の笑顔。気の抜けた緩んだその顔が少し意外で、ルーシャは目を見開く。

「オレ達とアイツらのことだから。……だから、ルー姉が何かする必要はないよ」

「………だからってお前が全部尻拭いする必要もないだろ?お前らの問題なら二人で解決するべきだと、私は思うけど」

顔を戻しながら言うと、同時に鼻で笑ったキルア。自嘲するようなその笑顔を見ていたくなくて、ルーシャは目線より少し下にあるその猫っ毛をわしゃわしゃとかき混ぜる。いってーよ、と呟いたキルアの口元は、やっぱり笑っていた。



□□□□



「二度とオレ達の前に汚ねぇツラ出すな――――『約束』だぜ?」

「……本当、懲りねェ奴ら」

結局サダソの試合放棄により、キルアは不戦勝。彼がキルアたちの前に再び姿を現すことはなかった。
結果的にキルア自らが奴らに制裁を加える形で終わったが、彼がそれで納得しているのか、本当にこれで良かったのか、ルーシャは判らなかった。

一方、ゴンvsリールベルト戦、同じくキルアvsリールベルト戦、そしてリベンジとなるゴンvsギド戦は、どれもゴンとキルアの快勝で幕を閉じた。
ギドとリールベルトは以前とは桁違いに強くなった彼らに完膚なきまでに叩き潰された。流石にもう奴らが手出ししてくることはないだろう。

数ヶ月前と比べ、ゴンとキルアは別人とも言えるほど力をつけてきていた。あまりに早くここまで来すぎたせいか、ルーシャまで追いつかれるのでは、と若干危機感を覚えるほどの成長ぶりだ。

とうとう今日からは発の修行が始まる。
ルーシャとゴン、キルアはウイングの宿に集まっていた。今回は珍しくウイングがルーシャに来るように連絡を寄越してきた。

「いよいよ今日から『発』の修行に入ります。これをマスターすれば、念の基礎は全て修めたことになります。あとは基本に磨きをかけ、創意工夫をもって、独自の念を構築していくだけです。それでは始めましょう」

ウイングは6つの属性についてや、能力をつくる際の諸注意等を説明していく。少々長くなるその話を聞き流しながら、ルーシャは皆に気づかれずに小さく欠伸をした。

「自分のオーラがどの系統に属してるかなんて、調べる方法なんてあんの?」

キルアのその言葉に肯定してウイングはグラスを取り出した。それに水を入れ小さな葉を一枚、水に浮かべる。

「ここに手を近づけ『練』をおこなう。その変化によって資質を見分けます」

これが心源流に伝わる『水見式』。この方法は色々な場所で系統を調べる為に使用される。ウイングはグラスに手をかざし練を行なった。

「水が…すごい勢いで増えてる!?」

グラスから湧き出た水は、淵から溢れ机に広がってゆく。ある程度で練を止めたウイングは四人に『水見式』を試すように促した。

「え、私もですか?」

「ええ、三人の見本になれば、と思ったのと、単純に私も興味がありますから」

(……本命は後者だな、絶対)

ルーシャは三人に混じってジャンケンで順番を決めた。
一番はゴン。ウイングがそうしたようにコップに手をかざし、練。そうするとコップの端から一筋、雫が溢れ落ちた。ウイングと比べるとかなり変化が乏しいが、これは強化系の証。
続いてズシ。練を行うと風が吹いている訳でもないのに、浮かべられた葉がゆらゆらと小さく揺れる。葉が動くのは操作系の証、とウイングが言ったところでキルアが次にグラスの前に座った。

「何も変わんねーぞ」

「そうですね」

練を行なってもグラスに変化はない。焦り気味に才能ないのかな、とウイングに尋ねたキルアは、彼に言われグラスの水を舐めてみる。
ほんの少しだが水に甘みがあった。
ゴン、ズシ、ルーシャも続けて水を舐めてその味を確認する。

「水の味が変わるのは変化系の証です」

「へーそうなんだ……」

(ふーん、ゾル家の奴らって操作系が多いと思ってたけど……そういえばシルバは変化系だったか)

「じゃあ最後はルーシャだね!」

「ジャンケンでは勝った癖に一番最後かよ。勿体ぶるなっつーの」

ゴン、キルアは、ズシの系統が判明したあと、その場にいる四人の視線は自然とルーシャへと集まった。キルアの憎まれ口に拳骨を一つお見舞いしてから、彼女は先程の三人と同じようにグラスに手をかざした。

「ちょっと離れてろよ」

「え?…うわっ!」

突然のことにゴンが声を上げる。
ルーシャが練を行なった瞬間、グラスは元の原型を留めることなく粉々に飛び散った。中に満たされていた水は、グラスが割れたと同時に凝縮する。そうしてできたのは透明な小さいキューブ。机にそれが転がり落ちたところで、ルーシャは練を止めた。

「……今のは?」

ゴンの問いに、考え込むように少し間を開けてウイングは答えた。

「強化、変化、具現化、操作、放出、5つの系統のどの反応とも違うということは……ルーシャさん、あなたは特質系ですね?」

「特質系?」

「そ。けっこうレアな系統なんだぞ?」

「ふうん……?」

全員の系統が判明したところで、ウイングは「これから4週間はこの修行に専念すること」と締めくくった。
念の基礎が終了するまであと少し。
徐々に近づいてくる裏ハンター試験合格に、ルーシャは小さく笑みを浮かべた。

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