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試合時間僅か三分。
勝負が決まった瞬間、観客席の凄まじい声がオレたちの周りで起こった。
今日は200階クラスに上がって、初めてのルーシャの試合。身近の念能力者であるルーシャの戦いを見れるのは、凄く楽しみだった。
予想はしていたけれど、結果はルーシャの圧勝。二ヶ月前のオレの試合とは全く違った試合だった。
ギドの攻撃を受けてもぴくりともしなかったルーシャの身体から立ち上るオーラはすごく力強くて、密度の濃いもので。

ああ、全然違うや。
オレとキルア、ズシとは遥かにレベルが違う。

その差に改めて驚く。
こんなにルーシャは強かったんだ。
今までずっと傍にいてそれに気づかなかった自分の力不足が身に染みて、気づけばオレは膝の上で拳を握りしめていた。

こんなのじゃ、ヒソカとはまだまだ戦えない。
ヒソカはきっともっと強い。

もっと、強くならなきゃ。

割れるような歓声の中で、握った拳が微かに軋むような音を立てた気がした。

「すごいッス……!ルーシャ先輩、すごいッス!!」

「よし、ちょっくらルー姉に声かけに行くか」

キルアのその提案にオレたち三人は観客席を立ち、闘技場を後にした。



□□□□



会場から出た私はのんびり歩きながら自販機を探していた。
やっぱりあの騒がしさはキツい。しかもゴツい男たちの野太い歓声。体力的に疲れなくても精神的に疲れる。いくら最近男に耐性がついてきたといっても、嫌なものは嫌だ。
お目当ての自販機を見つけた私は小銭を入れボタンを押した。ガコン、と音を立て出てきたスポーツドリンクを取り、一気に飲み干す。

「お疲れさま◇」

「……っ、ゴホゴホッ!」

やべ、気管に入った。ちょっと涙目。

「…………えーと、ヒソカだよな?」

飲み物を飲んでる最中に声をかけるのって一番やっちゃいけないことだと思う。若干咳き込みながら後ろを振り向くと、爽やかな好青年……じゃなくて変態ヒソカがいた。今日はノーメイクだ。

「ああ◆試合見たよ、お疲れさま◇」

「はぁ…どうも」

なんかこの顔だと色々とリアクションに困る。一応「美」をつけてもいい容姿だからか、強い口調で話しにくい。暴言を吐かれるようなことを奴がしなければそれでいいんだけど。
そう思った矢先、ヒソカはさりげない動作で私の肩に手を置く。

一瞬だけ、びくりと身体が震えた。
この手のセクハラは散々奴から受けている。それでも全く平気にならないのは、思ったよりも私の意識の底深くに『男嫌い』が根付いているのかもしれない。

「もうほとんど大丈夫そうだね◇」

「そう見えるなら良いけどなっ!」

「痛っ!何するんだい◆」

「知らん。お前が悪い」

爪先をさするヒソカにそう捨て台詞を残してさっさと自室へ向かう。
もうこのやりとりも何回したか覚えてない。
……ん?ってことはそれだけ私はヒソカといる時間が長いってことか?

「他の男に触られてももう平気なのかい?ボクとしてはちょっと残念だけど◇」

「あ?んな訳ないだろ、お前だけだ、平気なのは」

「…………」

なんだか意味ありげな沈黙だったので振り返ると、ヒソカは今まで見たことないような驚いた表情をしていた。中途半端に開いている口が間抜けだ。
何にそんなびっくりして………あ。

「……わ、わわ忘れろ!今言ったことは!記憶の中から消去しろ!!」

なんて恥ずかしいことを言ってんだ私は!
慌ててそう言い直すと、間抜け面だったヒソカはいつもの表情に戻っていた。即ち、にやりとした意地の悪そうな笑み。

「まさかルーシャに口説かれるなんて思ってなかったよ◇『ボクじゃなきゃダメ』なのかぁ……◆そうかそうか◇」

「おい!!揚げ足をとるな!!」

「それってつまり『ボクがルーシャにとって特別』ってことかい?嬉しいねェ…◇」

「阿呆だ!お前は阿呆だ!!いや私も馬鹿だ!何なの死ぬの私!?」

「混乱し過ぎて何言ってるのかよく分からないよ、ルーシャ◇」

もう奴にいちいち言葉を返す余裕さえなかった私は、ヒソカを置いて自室へと走った。おかしくてたまらない、といった奴の笑い声が背中ごしに聞こえて泣きそうになった。

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