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「キミの敗因は、容量のムダ使い◇」

リング上でトランプと共に倒れたカストロに背を向け、ヒソカは去っていった。
カストロ対ヒソカの試合は、カストロ死亡によりヒソカの勝利。興奮冷めやらぬ歓声の中で私は腕組みをして首を捻った。

正直、もの足りない感じだった。
カストロのあの能力―――ダブルなら、もう少しヒソカといい勝負すると思ったんだけど。
ヒソカもヒソカで若干手抜いてたっぽいし、頑張ればなんとかなったはず。言葉に惑わされて精神的に追いつめられたのが大きかったかな。あれだけ精巧な分身を作れる力があったのに……勿体無い。

「なんかよく分かんない試合だったなー」

「あー……そうだなー」

会場から出てまずキルアがそう言った。ま、確かに凝がまだ使えない状態じゃ、今日の試合は訳が分からなかっただろう。私は曖昧に言葉を返す。
しかし別に殺さなくても良かったろうに。普通に負かしてくれてれば私もカストロと戦えたし。

「なんだよその空返事。ちゃんと見てたのかルー姉?」

「見てた見てた」

「じゃあなんで腕がくっついたのか分かったのか?」

「ヒソカの能力だろ?」

ヒソカの能力は二つ。見たところ。
一つは私を捕まえるのに使ってたゴムみたいな能力。伸縮自在で、カストロの顎に腕を命中させたのはそれを使ったと見える。
もう一つは……あのスカーフだと思うんだけど…

「だからそれは分かってるっつーの!オレが聞いてるのはそれがどんな能力かってこと!」

「それはちゃんと考えないと分かんねェな」

「ふーん……」

若干不満顔のキルア。分かっても教えるつもりはないぞ。表情だけで私はそれを訴えたが、ぷいとキルアは顔を反らした。そして突然ぴたり足を止める。

「?」

不思議に思いながら私も足を止め、キルアに向けていた顔を正面に戻した。

「うわ」

「やぁ◇」

なんで試合帰りのヒソカがこんな所に。
それは奴を見て直ぐに分かった。どうやら私たちを待っていたらしく、「ああ、来た来た◇」なんて言いながら壁に寄りかかっていた身体を起こしたからだ。
しかも腕もげてるままだし。
当の本人は大してそれを気にした様子もなく、私たちにじっとりとした視線をよこした。

「見てくれたかい?二人とも◆」

「はぁ……。お前さ、もう少し普通にやれよ。なんでわざわざ腕渡す訳?」

「その方が見てる方も楽しめるんじゃないかと思って◇」

「逆に不愉快だ馬鹿」

もう行こう。私はキルアを引き連れてヒソカの横を通り過ぎる。

「キミと戦いたい◆」

ぴたりと私の足が止まった。

「いつでも構わないよ、日は任せる◇……どうだい?」

「…………」

「おいルー姉?まさかオッケーしたりは……」

返事をしない私にキルアは顔を覗き込んだ。

悪いけどちょっと戦ってみたい。
確かに今日のようなえげつない試合を望んでいるわけじゃないが、戦闘だけでいうならヒソカは間違いなく天才だ。
私も戦うのは好きな方だし、こういった強い相手とはやっぱり手合わせ願いたい。
でもここに来たのはゴンがヒソカと戦うため。ゴンより先にこいつと戦う訳には行かない。

「……お前がゴンと戦った後なら考えとくよ」

「ルー姉!?」

目を見開くキルアを置いて、私は直ぐにその場を去った。



□□□□



ヒソカの腕の治療を終え、私はさっさと部屋を立ち去る。
アイツは金づるにはちょうどいいけどどうにもいけ好かない。団長のこと狙っているみたいだし、勝手に活動をサボったりするし……まあ、私が奴のことを嫌う理由はまた別に有るけど。

天空闘技場の長いエレベーターを降り、賑わう人混みの中を歩く。
奴は来るだろうか。
来なかったら非難されるのは私だから、前みたいに活動すっぽかすようなことは本当に止めてほしい。
全く、とんだ団員が入ったものだ。前の4番とは大違い……いや、戦闘狂なところは、似てるといえば似てるかもしれない。

ふと前を向くと、子供二人に混じって長い金髪の女の後ろ姿が見えて、私は思わず顔を伏せた。

未だにあの子の事を思い出してしまう自分の女々しさに舌を鳴らす。もうあの子は旅団員じゃないし、それにきっと既に死んでる。

今更なんだっていうんだ。

忘れろ、もう。

今は次の旅団の活動について考えておけばいい。

そう自分自身に言い聞かせて私は顔を上げる。ちょうど前にいた三人組は、そこの角を右に曲がる途中だった。右に子供二人、左に金髪の女。

「あ……!」

曲がる直前。

隣の二人と楽しそうに話す女の顔が、はっきりと、見えた。


どさり、と。

持っていた荷物の落ちる音がする。

気づけば私は直ぐそこの角を曲がり、彼らを追いかけていた。

「………ルーシャ」

人混みの中、さっきの金髪は見えなかった。

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