4/5

「うわー…今からあそこ行くのか」

会場に行く途中でモニターから聞こえてくる実況の声。
実力者同士の対決ということもあり、観客だけでなく同じ天空闘技場の闘士たちもこの一戦には注目しているらしく、一時間前にも関わらず会場は超満員だった。

「いいじゃん、せっかくのヒソカ戦だぜ?それにルー姉、男嫌い克服したんだろ?」

「克服してねーよ!ただかかってた念がとけただけで……」

「オレたちまだ念については詳しく知らねーし、よく分かんねー」

興味なさげにモニターに視線を移したキルア。薄情な、と出かかった言葉をのみ込んでルーシャは同じ方向へ目を向ける。ちょうど実況がそれぞれの戦績を解説しているところだった。

『戦績は7勝3敗ですが敗けはいずれも欠場による不戦敗!休みがちの死神、奇術師ヒソカ!そして戦績9勝1敗!ヒソカに敗れて以来9連勝!フロアマスターに王手!!武闘家カストロ!!』

アナウンサーの声に合わせ、カストロの過去の試合映像が流れる。圧倒的実力差で相手を翻弄する姿はどこか手を抜いてさえいるように見えた。続いて、こちらは今現在のインタビューの様子だろう、向けられたマイクに堂々とした様子で取材陣に答えるカストロの姿が画面に映った。

(ふーん……実力者であることは確かだが、あのヒソカに敵うとは思わないな)

『勝算がないなら戦いませんよ。2年前とは別人だってところをお見せします』

「…………」

「おー結構言うねー」

ルーシャの読みとは反対に、カストロは相当自信があるらしい。あのヒソカ相手によく大見得きったものだと、あくまで人事でそう思った彼女は、隣のキルアが含み笑いをしたのに気付いた。

「いーこと考えたー!」

悪戯を思いついたような表情のキルアはそう言って歩いていく。止めようか迷ったが、彼が何をしに行くのか少し気になったルーシャは、少し躊躇った後結局彼の後に続いた。
会場へ行く道をはずれ、選手用の控室へと足を向けるキルア。次第に人の流れは少なくなり、闘技場員が見張っている立入禁止場所までついて来たところでルーシャはようやくキルアの真意を理解した。

(なるほど、カストロの実力をちょっと見に行こうって訳だな。でもここから気配を消してもたぶん意味ないぞ)

見張りをすり抜け、部屋の扉の前まで来てから気配を消したキルアにそう伝えようと肩を叩く。しかし振り向いた彼は『気配消せよ』と目で訴えていた。
仕方なくそれに従うと、満足そうに頷いた彼はドアノブに手をかけた。

「私に何か用かい?」

(…………っ!?)

反射的に肩が震える。知らない内に背後を取られた事に小さく舌打ちしたルーシャは驚愕の表情を浮かべたキルアと共にゆっくりと振り返った。恐らく彼――――カストロの目に映る二人の顔はさぞ間抜けだっただろう。
至って余裕を保った表情のカストロは、微かに口角を上げてこちらを見つめていた。控室の椅子に視線を戻すと、さっきまで座っていた彼はいない。
目を離した訳ではなかったが、状況としてはカストロがルーシャたち二人の目を盗んで扉を抜け背後に回り、後ろから声をかけたということになる。

(いや、それはあり得ないな)

一人、心中で問答するルーシャ。
扉を抜けるということは彼女たち二人の真ん前を通るということ。いくらなんでもそれに気づかない訳がない。

(なら、瞬間移動の能力?)

否、これも当てはまらない。
後ろから声が聞こえてきた時、まだあそこにカストロは座っていた。直前まで自分の目で見ていたのだから間違いない。

(うーん……)

「いやぁ、サイン貰おうと思ってさ」

そこまで考えていた間に、キルアが適当に話をはぐらかした。気配を消した時点で試していたのは恐らくばれている為、あまり効果はないだろうが。

「私の?……あなたも、ですか?」

「あ、いや「そーそー!オレたちあんたのファンで」…………キルア」

合わせろよ、とまたしてもアイコンタクトをしてきた彼に肩を竦めたルーシャ。

「もうバレバレだから」

「え」

「そりゃね、同じ200階クラスのライバルくらいチェックしてるよ。ゴンって子は一緒じゃないのかい?」

「ほら」

「二人とも中々見事な絶だったよ。だが、気配を消すならこの階に来る前からじゃなきゃ意味がない」

つまり三人がこの階に上がってきた時から、下手をすればその前からカストロは自分たちに目をつけていたのだろう。一週間程で一階から一気にここまで上がってきた為、目立ってたということもあるだろうが。

「今日は敵状視察かい?」

「いやいや、ちょっとあんたを近くで見たかっただけさ」

「――――で、私の印象はどうだい?」

「……相当やるね」

「ありがとう」

キルアは真剣な表情で呟いた。確かに目の前で自分の理解不能の力を見せられれば、そう言わざるを得ない。しかし、カストロが今から戦う相手はヒソカだ。戦闘狂と名高い、普通の人間とは明らかに違う異質なオーラを放つヒソカ。奴と比べるとやはりカストロの実力は劣るように見える。

(ああでも、能力次第かな)

あの瞬間移動の念を見せられてから、ルーシャの中ではほんの少しカストロの印象が変わっていた。思ったより実力があるかもしれない。見たところ戦闘には使えそうな能力だ。
と、そう思考を巡らせている間にふとカストロがこちらを向いた。どうやらルーシャにもなにか要求しているらしい。

「先程のは驚きました、一体どうやったんですか?」

愛想笑いでとりあえずそう返しておく。ちら、とキルアの顔を窺うとアンタ誰と言わんばかりの表情。

「残念ながらそれは教えられないな。いずれキルア君とも……特にルーシャさん、君とは必ず戦いたいと思っているしね」

「はぁ……」

なんとも間の抜けた返事をしてしまったルーシャ。

(だったらもう一戦分くらい残しておけっつの。何か、フロアマスター挑戦権獲得まで頑張って10勝あげてこいってか。しかも今日勝つつもりで)

キルアが適当に受け答えしてる時にそう毒づいていた矢先、「バトルオリンピアで待ってるよ。君たちならこれる」等と告げ、カストロは控室に戻っていった。

「……今日負ければいいのに、アイツ」

「そしたらルー姉カストロと戦えるもんな」

「うんまぁ……それもあるけど」

微妙な答えに首を傾げたキルアだったけど、何か聞かれる前に、ルーシャはさっさと会場に足を進めた。

(そういえば結局、カストロって名前に聞き覚えがあったのは勘違いだったな……全く思い出せなかったし)

- 54 -
[] | []

戻る


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -