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「ゴーン。調子どうだー………………」

「あ、ルーシャ!みてみて完治したよ腕!!」

部屋の扉を開けたルーシャはドアノブを握ったまま硬直した。
そこには病み上がりにも関わらずアクロバティックな体制をとっているゴンの姿。空気を切るような鋭い音を響かせ身体をならす彼をただ呆然と眺める。
ルーシャは独楽を体に受け傷だらけだった彼を思い出した。確かあれは先月……先月だったはずだ。
その間、確かゴンは念を使っていない。身体を休ませ回復させる効果のある絶を行わず、この短期間であの状態。

「全治4ヶ月が1ヶ月で治るって……さっすが野生児」

「だよなー」

ルーシャの後ろから聞こえてきた同意の声に振り向く。
声の主であるキルアも怪我を完治させたゴンを驚きを通り越し呆れた表情で見ていた。
ウイングに全治2ヶ月と嘘をついて正解だったかもしれない。正直に言っていれば彼は3ヶ月もの間暇を持て余すことになるのだから。

「で、どうしたの二人とも?何か用があったんじゃないの?」

「いや、私はただの様子見。キルアは?」

「おう、これこれ」

と、キルアはポケットに突っ込んでいた手をごそごそと動かし、何やら紙を取り出した。出てきたのはチケット。それに書いてある文字を見た瞬間、ルーシャは顔を歪ませてその文字を睨んだ。

「げ、それヒソカが戦うやつのチケットじゃん」

「!」

ヒソカ戦は彼の実力故か人気がかなり高く、チケットを取るのは難しい。しかし200階の闘士ということで優先券がとれたそうだ。部屋を出て会場に向かいながらキルアはダフ屋から仕入れた情報を二人に話した。

「10戦して7勝3敗6KO。KO数イコール死人の数なんだってよ。3敗は全部不戦敗。戦闘準備期間がなくなったら登録だけして、試合には来ないってことらしいな」

「……つまり実際に戦ったら負けなしか」

「……だね」

その上、とキルアは更に説明を続ける。ヒソカの10戦して相手にとられたポイントはわずか4P。ダウン1回、クリーンヒット3回のみ。

「実力はもう間違いなくマスタークラスだってよ」

「うわー。まいったなー」

「………………(どこがまいった表情なんだか)」

全く、とルーシャは軽く息をつく。ゴンの表情は高揚感と好奇心に満ち溢れていた。
相手が強ければ強いほど、戦うのが楽しみだという気持ちは分からなくもないが、キルアが前に言ったようにゴンには時と場合と相手を選ぶ、という意識が少ない。
長所でもあり、短所でもある彼のそれがいつか致命的な欠点へと繋がってしまわないだろうかと、ルーシャはゴンの行く先を心配した。

「で、対戦相手はカストロってんだけど、唯一ヒソカからダウンを奪ってる男だ」

「!」

ヒソカが敵に与えた4Pのうち3Pが、このカストロによってらしい。

「これで多少はヒソカの戦い方が分析できるぜ。本気のヒソカが見れるかもよ」

「カストロ……カストロ……?」

「何だよルー姉。ぶつぶつ言って」

どこか聞き覚えのあるその名前を 記憶から掘り起こそうとするルーシャ。確かあれは1ヶ月程前だったか――――。

「ん、いいや。たぶん気のせいだろ」

「?そう?」

「ふーん……」

早々に記憶を辿ることを諦めたルーシャ。すぐに思い出せないということは、自分にとってそれほど重要なことでもなかったのだろう。そう単純に考える彼女とは反対に、キルアは不服そうに呟いた。

「まあこの試合見ればわかるさ。カストロってやつがどんなやつか」

「あれ、そのチケット……3枚あるけど」

キルアの右手に握られひらひらと揺れているチケットの枚数を確認したルーシャは声を上げる。

「は?オレと、ゴンと、ルー姉で見に行くんだぜ?」

「いやでも、」

「あ、そっかウイングさんとの約束……」

「そんなの大丈夫に決まってるだろ、ただ試合を見るだけなんだからさ」

「ダメです」

普通に会話に入ってきた新たな声に一同はびく!と身体を震わせた。振り向いた先にはいつの間にか、ウイングが。

「試合観戦も念を調べる行為に相当します。ゴン君、君はあと1ヶ月治療のみに専念なさい」

「うん、わかった」

じゃ、と当たり前のように去っていくウイングをストーカー呼ばわりするキルア。突然の不意打ちに三人はまだ心臓の鼓動が早い。

「しゃーねーな。試合は録画しとくとして、とにかくオレたち二人だけで行って観てくるぜ」

そこでゴンとは別れ、ルーシャとキルアは闘技場へと向かった。

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