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最近ヒソカがしつこい。

「やあ◆」

「『やあ◆』じゃねェよこの不法侵入者」

200階に上がってからというもの、暇があれば私に絡んでくるピエロ。視界にこの顔がちらつかない方が珍しいくらいだ。正直、それに慣れてきた私が一番危ないと思う。
という訳で今日も気がつけばパソコンの前に座る私の後ろに立っていたりする。肩にもたれ掛かってくる奴が鬱陶しい。部屋の鍵はもちろんかけていたはずだけど、そんなものコイツにはあってないようなものらしい。

「邪魔」

「つれないねぇ◆ちょっとぐらい構ってくれてもいいじゃないか◇」

クスクスと笑いながらぎゅ、と身体を密着させて頬を寄せてくるヒソカ。少し振りかぶって頭を横に薙ぎ、頭突きを食らわせる。床にうずくまる奴を鼻で笑っておいた。
あれから、私の男嫌いが念だと発覚してから、ヒソカからのスキンシップが格段に増えた。スキンシップというかセクハラだこれ完全に。
触られるのが平気になるまでそこそこ時間はかかったが、今ではだいぶ慣れてきたと思う。
……いや、平気になったというよりは……その、嫌悪感から照れに移行した、というか……。ほら、あんまりスキンシップ自体慣れないから。
でもそれと同時にヒソカへの警戒心も緩んで来た気がする。やばいぞ私、気を引き締めろ気を。

「何しに来たんだよ」

「用がないと来ちゃいけないかい?」

「気が散る」

「ルーシャは何してるんだい?」

「ネトサ」

「楽しいのかいそれ?」

「お前といるよりはな」

「ひどいなあ◆ボクはキミの顔が見たくていつもここに来てるのに」

「私はそのピエロメイク見てるだけで嫌だ」

「…………◇」

そう言うとヒソカは静かに立ち上がってどこかへ消えた。ばたん、と音がしたからたぶん部屋を出たんだろう。……少し言い過ぎたか?あのメイクも何か奴なりにポリシーがあったのかもしれない。
そのしおらしい反応に少し戸惑いはしたが、まあそれなら邪魔者は消えたことだし、と私はヘッドホンをかぶり画面に向き直った。
動画投稿サイトや某掲示板を軽く巡り、レンタルビデオ店のネット宅配のボタンを押した所で、一息着こうと椅子から立ち上がる。
その途端に何か生温かいものが首筋を這った。

「ひゃっ!」

情けない声を上げて私は後ろを振り返る。

至近距離に、見知らぬ男がいた。

「……誰だお前」

じろりと睨み付けて殺気を向けた私に、おかしくて堪らないといったような表情で男はクスクスと笑う。少し長めの茶髪に切れ長の瞳の爽やかな印象の彼は、一言で言うと美形だった。しかもかなりの。

…………ん?


「え?は?………え?」

「ククク……!思った通りの反応◇」

「いやいや…………え、嘘だろ?」

「嘘じゃないよ◆ボクだよボク◇」

「ヒ……ヒソカ、か?」

私が恐る恐る尋ねた問いに、彼はウインクしながらそ◇と愉しそうに答えた。

「…………いやいやいやいやいやいや!!嘘!?何!なんなのお前!?」

「ふふふ◇驚いたかい?」

「そりゃ驚くわ!なんちゅう美しい顔してるんだよビ○ォーアフターか!!」

「どっちがアフターだい?」

「こっちに決まってるだろ!!」

なんということでしょう!あの薄気味悪いピエロが、ピエロが……!
余りの劇的さにまじまじと私はヒソカの顔を見つめる。何でいつもメイクなんかしてるんだコイツ。

「そんなに見つめるなよ◇………興奮し「もう帰れお前」……◆」

顔が違ってもヒソカはヒソカだった。いくら美形でもコイツの場合頭に『残念な』とつく。
ヒソカは濡れた髪をタオルで拭きながらベッドに腰掛けた。さっき出ていったのはメイクを落とす為だったのか。……ちょっとまて、まさか私の部屋のシャワー使ってないだろうな?

「これでいいだろう?出来るだけキミの部屋に来るときはこの格好で来るよ◆」

「いや………ていうかそこまでして何で私の所に来たがるんだお前は?」

「何でだろうね?」

「はあ?」

予想外なその答えに私はすっとんきょうな声を上げてしまった。
ヒソカは笑っている。
ただ、その笑顔は普段の奴と何か違う。
なんというか……いつもの人をからかっているような顔じゃない。

「ボクにもよく分からなくてね◆なーんか、ルーシャの顔が見たくなっちゃうんだよね◇」

「…………」

「まあ今日のところは帰るよ◇じゃあねルーシャ◆また明日」

「…………ああ」

そう手を振って奴は部屋のドアを閉めて帰った。
ばたん、と無機質な音がして、部屋は元通り静かになる。
私には、ヒソカが何を言いたかったのかよく分からなかった。

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