3/4

「…………あの、ヒソカ?」

「何だい?」

「そろそろ離して貰っていいか?」

それから数時間立った頃。時計は10時28分を指していた。廊下は今までと同じく人気はなく、ゴンとキルアが戻ってくる気配もない。ルーシャとヒソカはのんびりと世間話のような会話をしつつ、並んで二人の帰りを待っていた。

手は未だ繋いだままである。

「別に構わないだろ?訓練訓練◆」

「いや…ちょっともう、限界だから」

ルーシャは目を合わせることなく俯きながらそう漏らす。怖がる様子はないが、しきりに視線を泳がせる挙動不審な彼女に、ヒソカはにやりといつもの笑みを浮かべて言葉を続けた。

「何が限界なんだい?」

「…………」

「怖がってるようには見えないけど◇」

「う……」

「他に手を繋いでいて不都合なことでもあるのかい?」

「……あの」

「そういえば、ルーシャさっきから顔が赤いけど」

「あ゛あぁぁーもう!!その回りくどい言い方止めろ!ホント底意地悪いなお前!そうだよ恥ずかしいんだよ悪いか!!」

「口さえ悪くなきゃ、今のルーシャとっても可愛いのに◇」

残念◆と言った彼を他所にルーシャは更に赤面し、耳まで真っ赤に染めた。さっきから頬の赤みを誤魔化そうとしてはいたようだが、ヒソカの前では全く無意味だったらしい。
一気に叫んだ後、勢いを無くしたのかヒソカの視線に耐えられなくなったのか、ルーシャはしぼむように身体を丸め俯いた。羞恥のせいか僅かにぷるぷると震えている。

「ただ手を繋いでるだけなんだからそんなに照れなくて良いのに◇ウブだねぇルーシャ◆」

「ウブとかそういう問題じゃないから!」

指を絡めてくるヒソカに声を荒げ、顔を埋めながらも目線だけはヒソカへとやる。それにようやく彼は手を離したが、その代わりに肩を抱こうとして、しかしルーシャの拳で地に沈んだ。因みにこれは彼女自身の意思で、である。
それほど痛がることもなく(むしろ嬉しそうに)ヒソカはすぐ起き上がる。舌打ちをして眉間に皺を寄せたルーシャだったが、未だ顔は茹で蛸のような状態だったため、それほど迫力も無かった。
居心地の悪い視線を横から感じつつ、なんとか話題を反らそうと、彼女は未だ静かなエレベーターの方を向いた。

「……そういえば」

「なんだい?」

「お前ってクモの団員なのか?」

ハンター試験の時からずっと気になっていたことだった。
飛行船でのことやクラピカに話したことを踏まえても、ヒソカはクモと少なからず関係があるはず。案の定ヒソカからは肯定の返事が帰ってきた。

「ボクは抜け番だった4番に入った◇だからルーシャがクモを抜けたのを知ってたってワケ」

「……なるほど」

ルーシャも同じく団員ナンバーは4。二人はちょうど入れ替わるようにしてクモを通して行き違ったのだった。

「なんで入団したのか……は大体想像つくな。戦闘狂のお前のことだ、大方旅団員と戦う為だとかそんな理由だろ」

「んー、まあ大体正解かな◆」

微妙な返事に眉を潜めたルーシャだったが、特にそれ以上追求したい訳でも無かったため、彼女は次の質問を投げ掛ける。

「で?クラピカから話は聞いてるけど、お前アイツと組んで何やらかす気だ?」

9月にヨークシンで開催されるオークション。それに旅団が関わるのは団員であるヒソカの情報からして確かだ。
クラピカは進んで旅団に関わりにいくだろうが、ルーシャからするとそれは出来れば避けてほしい所だった。仲間としても、元団員としても。
手前勝手な考えであることは分かっている。しかし、どちらの立場とも言えない彼女は、二つが衝突するような光景は、正直見たくなかった。いずれそうなるとは分かっていても。
かといってクラピカを止める権利もヒソカとの同盟を邪魔する権利も、ルーシャにはない。
刻一刻と迫る時に備えて、ルーシャは“覚悟”を決めておくつもりだった。

「彼と組んだら上手く団長を一人に出来るんじゃないかと考えたのさ◇普段は最低でも二人は団長の側にいるから近づけないし、中々ヤり合う機会がなくって◆」

舌舐めずりをしたヒソカから若干目を反らすルーシャ。だが余りにヒソカの近くに居すぎたせいか、その恍惚とした気味の悪い表情は以前より見慣れていた、否、見慣れてしまっていた。いらん耐性だと不愉快さに顔を歪めたルーシャである。

「……そうか」

「ルーシャは、どうするんだい?」

「何が?」

「話してないんだろう?彼にも、他の三人にも」

二人の間に沈黙が下りる。
ヒソカは次の言葉を待った。

「……いつか、話さなきゃいけないのは分かってる。どうせバレることだし、早めに打ち明けるつもりだ。次に全員揃った時……皆に」

アイツらと一緒にいられるのは、それまでだな。

そう言ってルーシャは微笑を浮かべた。

チン、と。
ちょうどその時、エレベーターの到着する音が鳴り、ゴンとキルアが姿を現した。

「!」

ドアが開いて見えた二人の表情は、先程とは全く違う。
彼らがこちらへ歩いてくるのと同時に、ヒソカは自身のオーラを飛ばす。数時間前まではその場にいることすら耐えられなかったはずの二人は、難なくヒソカの念を潜ってきた。
現在の時間は午後10時30分過ぎ。約二時間という短時間で完璧に纏をマスターしたようだ。
ヒソカは念の恐ろしさを表すかのように指先でドクロを形作る。「このクラスで一度でも勝つことができたら相手になろう◇」とゴンに言葉を残し、彼はその場を去った。
因みにその際ルーシャの頬にちゃっかりキスをして殴られていた。頬を腫らせて廊下の奥へ消えていく格好悪い背中に、思い切りルーシャは殺気をぶつけたのだった。

「……あんの野郎…!!」

「え?え?どうしたのルーシャ!」

「な…?!あの……あのルー姉が乙女みたいな表情して…!」

「ねえ何があったの!?一体ヒソカ、ルーシャに何していったの!?」

「私とヒソカがなんかしたみたいな言い方するな気持ち悪い!!」

- 49 -
[] | []

戻る


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -