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ルーシャの声に二人は背後を振り返った。
そこには、先日“燃”をゴンとキルアに教えた、いや、本当の“念”を教えてはくれなかったウイングがいた。

「無理はやめなさい。彼の念に対し君達はあまりに無防備だ」

「これが燃だと!?あいつが通さないって思うだけでこうなるってのか!?ウソつけ!!」

「はい。あれはウソ(みたいなもん)です」

あっさりと自分の嘘を認めたウイング。
やっぱりか、とキルアは呟いてルーシャに鋭い視線を送る。彼女自身は気付かないフリをしてそれを受け流したが。

「本当の念について教えます。だからひとまずここから退散しましょう」

その言葉に安堵した表情で息を一つついたルーシャ。どうやらネテロからの仕置きは受けなくて済んだようだ。
しかし200階クラスの登録は今日中にしなければいけない。
現在時刻は8時20分。纏を修得して帰ってくるまでには些か時間が足りないように思う。
ゴンが案内嬢に尋ねたところ、今日登録を逃してしまった場合、ゴンとルーシャはまた1階から挑戦出来るらしい。しかし、キルアだけは以前登録をしなかっため、今回未登録ならば登録の意志なしとみなされ、参加不可能となってしまう。

つまり、約三時間半で纏を習得して帰ってこなければ、ゴンとルーシャはともかくキルアはもうこの闘技場では戦えない。

「ひとまず…退いて、0時までに戻ってこれるかい?ここに」

二人はウイングを見る。
真剣な眼差しと覚悟をしっかりと受け取ったように、ウイングは二人を見つめ返した。

「君、次第だ」



□□□□



「ん?」

ゴンたちと共に足を踏み出そうとしたルーシャは、自分の体がこれ以上前に進めないことに気がついた。
理由はその瞬間に分かっていたが、正直考えたくない。
しかし体の自由が効かない以上どうすることも出来ず、彼女は恐る恐る違和感のある左腕を見た。

「……はぁーーーーーー」

「長い溜め息だね◆」

「自分のせいだと分かってるくせにそういうわざとらしい事言うな、腹立つ!!」

予想通り、そこには以前ヌメーレ湿原でヒソカに追い付かれたときと同じような細長いオーラが伸びていた。しかも気がつかなかったが、今回は念入りに全ての手足それぞれに貼り付けられている。

「でもルーシャは残るだろ?念が使えるんだし◆」

「なわけないだろ離せ馬鹿!!」

激昂した彼女を一切無視して「行ってらっしゃい◇」などと呑気にゴン達に手を振るヒソカ。
話を聞こうとしない彼を見て、説得は無理だと諦めたルーシャは何とか足を踏み出そうと暴れ、しかしどうしようも出来ずにヒソカの笑いを誘った。

「早く纏をマスターしなければ!さぁ二人とも、私の宿に来てください」

「ウイングさん三人と言ってくれ頼むから」

(冗談じゃねェよこんな奴と一緒にいたら私のありとあらゆるものが危ないだろうが!!)

そうだよ、とゴンは助け船を出す。

「ルーシャは男嫌いなんだ!こんなところにヒソカと二人きりにしておけない」

「えっ……そうなんですか?」

「へえ◆ボクも初めて聞いたなぁ」

「別に大丈夫だって。早く行こうぜウイングさん。時間が勿体無い」

しかしゴンとは対照的に、薄情にもさっさとキルアはエレベーターへと歩いていった。
時間が惜しいという理由だけでないのは、彼の表情を見れば一目瞭然だ。
念を教えなかったことを根に持っているのか、にやりと黒い笑みを浮かべたキルア。その顔を見て、ルーシャは彼よりもどす黒いオーラを放った。

「キルア…………この野郎……」

「じゃあ頑張れよールー姉!」

「キルア!流石に酷いよ!」

ヒソカとともに置き去りにするのは酷だと、キルアに反論するゴン。自分をヒソカの手から救おうとしてくれる彼に、ルーシャは期待の眼差しを送った。

「ゴン…!」

「大丈夫さ◇彼女には危害は加えない◆安心して行きな」

「……本当だな」

「うん◇」

「…………分かった。ルーシャは置いていく」

「嘘おぉぉぉぉ!?」

余りにも簡単にそう言い放ったゴン。
その瞬間、ルーシャの僅からながらにあった希望がガラガラと音を立てて崩れていった。彼らしいと言えば彼らしい単純さである。

「じゃあルーシャ、絶対にネンを覚えて帰ってくるから!それまで待っててね!!ぜったいだよ!!」

「いや待てって!よく考えろ!!ヒソカがそんな約束守ると思うかコイツとんでもなく嘘つきだぞ!?」

必死に叫ぶ声も虚しく、ゴンたちはエレベーターに乗ってこちらに手を振る。今にも閉まりそうなドアに向け、ほぼ独り言のようにルーシャは言葉を紡いだ。

「……え?行かないよな?だってこんな状態で私、まな板の上じゃん包丁今まさに降り下ろされてるじゃん待てって!!料理される前に魚を!魚を救い出してェェェ!!」

200階のロビーに悲痛な叫び声が響き、そして消えた。

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