1/6 二人と別れた後、手持ちぶさたになった三人はゴウンゴウンと飛行船の飛び立つ音を背景にのんびりと歩いた。 「ルー姉はどーすんの?」との声に、基本的に二人に着いていくことを告げたルーシャは、逆にこれから何処に行くのか二人に聞き返す。 「そりゃ特訓に決まってんだろ?」 ヒソカに一矢報いるという目標があるため、やることは当然一つ、とにかく特訓すること。でなければヒソカになど、相手もされないどころか触れることすら出来ない。 当の本人であるゴンはその際呑気にも「遊ばないの?」と返してキルアとルーシャを呆れさせたが、キルアの方は最初から決めていたらしく自信たっぷりに、鍛えるにはこれ以上ない場所を提案した。 「天空闘技場!」 □□□□ 「全く、金ちゃんと返せよゴン」 「はーい」 「これで三人とも飛行船の乗船賃で金は全部使っちまった。船を降りたらゼロから出発だな」 「うん!」 (口座にはまだ沢山あるんだけどな、実は) ルーシャの持ち合わせていた金はゴンの乗船賃に消え、(因みにルーシャ自身はハンター証を使った)僅かだった手持ちはゼロに。彼女が心の中で呟いたように通帳にはまだ余裕はあるのだが、今の持ち金としては三人とも一文無しで天空闘技場の入口をくぐったのだった。 「私ここ来るのそういや初めてだ」 「へぇー以外。ルー姉なら来たがりそうなとこだと思ったのに」 「お前との訓練とかで時間使ってたし来る暇も無かったからな。でも最近はミルキの部屋に引きこもってたせいで体鈍ってるし、肩慣らしには丁度いい場所だ」 「それにしても人が凄く多いね」 雑談をしながら歩いてきた受付には、ずらりと長蛇の列が出来ていた。やはり闘技場なだけあり、男が目立つ、というよりほとんど男しかいない。 ハンター試験最初の地下道を思わせるむさ苦しさはルーシャにとっては居づらい空間である。その列を見た途端、彼女が渋い顔をして俯いたのは言うまでもない。 キルア曰く相手を倒すだけで金が貰えるシステムなのだから人が多いのは当然とのことだが、列に並んでいる間ルーシャは終始仏頂面だった。 列の先頭へ辿り着いたのはかなり待った後。受付嬢に渡された用紙に三人は必要事項を書き込む。 (格闘技経験10年って書いとけ。早めに上の階に行きたいからな) (10年ってお前……) 用紙を提出し試合会場へと足を進めると、歓声が三人を包み込んだ。16のリングとそれを取り囲むようにある観客席が目に映る。 スポットライトに照らされる中、リングの上では血を流しながら激闘する者、余裕の表情で相手を圧倒するものと様々。 観客席にまばらにいる人間も応援をしたり、はたまたヤジを飛ばしたりと色々だった。 「なつかしいなー。ちっとも変わってねーや」 「え?キルア、きたことあるの?」 「ああ。6歳の頃かな。無一文で親父に放りこまれた。『200階まで行って帰ってこい』――ってね。そのときは、二年かかった」 「シルバ…さん鬼だな」 「だろー!?6歳ってあり得ねーぜフツー」 「どうりでキルアがここのこと詳しいと思ったよ、一回きてたんだね」 しかしヒソカクラスの人間と戦う為にはそれ以上の階の相手と戦わなければ意味がない。 ひとまずの三人の目標は200階となったが、その道のりは遠い。急ぐぞ、とのキルアの声に二人は頷いた。 『1973番・2055番の方、Eのリングへどうぞ』 「あ、オレだ」 放送で番号が呼ばれたゴンはリングへ向かうため立ち上がった。少々緊張している様子を見たキルアはならさ……と彼に何かを耳打ちする。 何を言ったのか尋ねると「見てれば分かる」と一言。ふーん、と観客席に座り足を組みながらルーシャはリングへ上がってくるゴンを待った。 少しもしない内に、ゴンは試合相手と共にリングへ上がってきた。相手の男はかなり大柄で、ゴンと並ぶとその巨体はますます大きく見える。 死んでも知らねーぞ、と威圧感たっぷりに男は言った。観客席でも運がいいな、とか逃げるなら今だぜ、などと声が飛ぶ。 全員ゴンが勝つはずがないと思っているようだ。 その声を背に、観客席に座っていたキルアはこれから起こることを予想してか薄ら笑いを浮かべていた。 「なんだあのガキ!」 「ゴリラ以上のパワーだぞ!!」 結果はキルアが予想していた通り、ゴンの勝ち。ただ思いきり押しただけにも関わらず、ずっしりとした体躯の巨漢は毬のように軽く吹っ飛ばされて壁に激突した。 「よしっ!」 「なるほど。試しの門で鍛えた腕力を試したってことか」 ゴンが50階行きのチケットを貰ったちょうどその時キルアが呼ばれた。 リングに上がった彼は、ゴンと同じく試合開始すぐに相手を昏倒させる。その素早い身のこなしに観客からはゴンの時以上にどよめきが起こった。 化物だなんだと騒ぎ立てる観客の声に、近くの席に座っていたルーシャは不機嫌そうに眉をしかめる。 (うるっさ……ここってずっとこんななのか?) 闘技場である限りこういった歓声はつきものなのだが、なにせそこかしこから男のの太い声と熱気が上がるのだ、ちょっと前まで部屋に入り浸ってゲーム三昧だった時と比べてあまりに環境の差が激しい。 (その内慣れるといいけど……) そう諦め気味に溜め息をついた瞬間、また何処からか大きな歓声が聞こえた。鬱陶しそうにルーシャはそちらへ顔を向け、 「押忍!」 (お?ゴンとキルア以外に子供がいる) 二人より少し小さいくらいの年の少年を見て表情を変えた。 いかにも体育会系といった柔道着を着ているその少年は、負かした相手にしっかりと挨拶をしてリングから降りた。礼儀正しい子、というのが第一印象だ。 『2056番、2001番の方、Cのリングへどうぞ』 「あ、やっとか」 その少年がリングから降り、キルアが観客席へちょうど帰ってきた頃、ようやくアナウンスの呼び出しがかかり、ルーシャはリング上へと向かった。 [前] | [次] 戻る |