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それから約二十日、ルーシャは一日の大半をミルキの部屋で過ごすことが多くなった。
キキョウと別れて久しぶりにルーシャがミルキの部屋に入ると、いつも通りにずらりと並んだコンピュータと電子機器のコードが一番に目に入った……と普通ならそう形容するのだが。

「うわっ!またフィギュア増えてる、しかも等身大って……」

「どうだ?会心の出来だぜ?」

「いや、技術は流石なんだけどさ、どんどん部屋が狭くなるじゃん。私がいつも座ってるテリトリーに入り込んでるし……」

「お前のテリトリーとか知るかよ。あ、そうだ新しく作ったゲーム。今回は絶対クリアさせない自信ありだぜ!」

「はっ!私がかつてミルキ作のゲームを攻略出来なかった時があったか?いやないね!」

フィギュアとスナック菓子だらけの薄暗く汚い部屋の中でひたすら画面と向き合う二人。会話をしながらも手元は狂わさずに各自ゲームをプレイする姿は何処からみてもネット廃人もしくはゲームオタクである。
こんな生活が二週間余り。
最低限の運動はしているものの、確実にルーシャの筋力は衰えてきていた。
それでも今日も今日とて、彼女はゲーム機だらけの部屋へと足を運ぶのであった。

「じゃあちょっとキルを見てくるから、そこらへんの器具触るなよ!」

「はいはい。……そういえばあれからイルミはずっと警戒してて私は独房に近づけないんだけどさ、キルアどーしてる?」

「…………来るか?」

「え?いや、でもイルミが……」

「大丈夫だ、イル兄なら今日から三日仕事で帰って来ない」

よっこらせ、と重たそうに腰を上げたミルキは、そう言ってルーシャを手招いた。



□□□□



数週間前と同じように鎖に繋がれたキルアが独房に入ってすぐ視界に映った。以前彼女が見たときより傷が増えているのは、今のようにミルキが鞭をしならせてキルアを叩いているからだろう。

「起きろ!!」

「ん……ああ兄貴?お早う、今何時?」

「キル……お前いい気に―――」

「よっ。おはようキルア」

キルアが目覚めたのを確認して、ルーシャは軽く声をかける。まさかルーシャがいるとは思わなかったのか、彼は驚いたように目を見開き、視線を一瞬さ迷わせてから俯いた。

「ルー姉!?来てたんだ……」

「あんな別れ方したら普通様子見にくるだろ」

「あの、さ、腕……ごめん」

「腕?ああ、大丈夫大丈夫、もうすっかり完治だって」

「そっか……」

「それよりお前が大丈夫かよ?傷だらけで痛々しいし」

「……大丈夫だって、たかがブタ君の拷問だぜ?」

「おいキル、あんまりいい気になるなよ」

二人の会話に割り込むようにそう言ったミルキは額に青筋を立てながら右手に持っていた煙草の火をキルアの肌に押しつけた。あちち、と対して熱そうにもせずにキルアは軽く声を上げる。

「そんなァ。オレすげー反省してるよ。ゴメン、悪かったよ兄貴」

「嘘つけ!!」

そう涼しい顔をしながらいう彼の表情には全く反省の色は見えない。ミルキは怒りを露にして目の前の顔に再び鞭を叩きつけた。それを食らってもなお、表情は崩れない。
やっぱわかる?とおどけて言ったキルアの笑顔に、ミルキの怒りはおさまるどころか更に込み上げる。しかしギリギリと歯ぎしりをした後、唐突に彼の胸ポケットの携帯が音を立てた。

「はい!あ、ママ?……うん……うん、分かった。……キル、お前の友達、とうとう執事室の近くまで来たそうだぜ」

「…………」

「どうするキル?オレがママに頼んで執事に命じてもらえば三人とも――――」

瞬間。

「ひっ!?」

小さい悲鳴があがると同時に重い破壊音が独房に響く。繋がれていたキルアの片方の鎖は彼により引きちぎられ、だらりと垂れ下がる手の爪は、鋭く尖っていた。

「ミルキ………三人に手を出したら殺すぜ?」

そう呟いたキルアの目は、まさしく獲物を狙う獣の瞳。敵意などという生易しいものではない気迫に、ミルキはたじろぎ脂汗を流した。

「く……」

「弟にビビってやんのーやーいダッセー」

「ルーシャ五月蝿い!!」

茶化すルーシャにも鞭を振るったミルキだったが、あっさりと彼女はそれを避けてへらへらと笑う。
ちょうどその時、ゼノが独房に入ってきた。シルバがキルアを呼んでいるらしい。訝しむ様子を見せながらも、キルアは今まで自分を縛っていた鎖をいとも簡単に、腕力だけでちぎって外した。

「それからルーシャ。お主も来るように、とのことじゃ」

「?」

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