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ゴトーさんと別れた私は、キルアのいる独房に真っ先に足を運んだ。え?イルミの忠告?知るかそんなん。
音をたてずにそっと中に入ると、ひんやりとした独房の冷たい空気が肌を撫でていった。石畳に覆われた、あちこちに拷問器具の並ぶ物騒極まりない広い部屋の真ん中。鎖に繋がれ、身体中に痛々しい鞭の痕が刻まれたキルアがそこにいた。
恐らくミルキにでも拷問をされたんだろうその傷跡は全く効果がなさそうで、案の定彼はすーすーと心地良さそうな寝息をたてて寝ていた。

随分呑気なものだ。まあこの調子じゃあ特に心配することもないだろう。ひとまず安心した私は彼の近くまで歩み寄る。しかしその時、ほんの僅かに人の気配を感じた私は、足を止めて後ろを振り返った。

「、――――っ!!」

そこにいたのは、ついさっき一緒に門を潜った無表情男。暗い独房で彼が静かに立っている姿は、正直ホラーものだった。長い髪が僅かに顔を隠し、雰囲気を醸し出している。一瞬声を上げそうになったが、口を押さえてなんとか叫び声は押し止めた。
独房から出るように私に合図するイルミ。容赦ない刺々しいオーラを突き刺されながら、私は独房の入口に足を向けた。
これは相当怒ってるぞ……。



□□□□



「っ痛!」

独房から出て早々、イルミはルーシャの肩を掴んで壁に打ち付けた。いくら腹が立っていてもまさかいきなりそんな風に出るとは思わなかったルーシャは、されるがまま身体を硬い壁にぶつける。
痛みに顔をしかめながらはたと上を見上げると、これ以上ないぐらい苛立った空気を醸し出して、それでも表情筋を全く動かさない仏頂面がずいと目の前に迫ってきていた。

「オレ言ったよね?キルには会いに行くなって」

「あ、ああ……って痛い痛い!」

みしり、と掴まれた肩が音を立てる。それを振り払うべくルーシャは右手を上げるが、しかし彼により呆気なく受け止められた。肩からは手を離したが、代わりにイルミは片腕だけで彼女の両手首を締め上げ拘束する。

「ちょっ……!離せこの馬鹿!!ってか近づくな!私が男嫌いなの良く知ってるだろ!!」

「うん、わざとだけど」

「てめ、イルミィィィィ!!」

試しの門で分かるように、イルミとルーシャでは力の差が圧倒的に違う。実際は何十トンといったとてつもない力のやり取りが行われているのだが、ルーシャがじたばたと暴れたところで彼はどこ吹く風なのである。

「……悪い、悪かった!もう許可なしでは入らないから」

「ふーん。ホントに?」

「ホントに!ホントだから早く離れろ!!」

「……どうしよっかなー」

「はぁ!?」

無表情ながらうーんと何かを考え込むイルミ。その間にもギリギリと彼女を掴む手は絞まっていく。

(コイツ……!絶対嫌がらせでやってる!!)

「こんの…………離せ!!」

その瞬間、ルーシャは自身のオーラを全てイルミへ向けて放った。彼は臨戦態勢に入ったルーシャから攻撃を免れる為素早く離れる。

「何逆ギレしてんのさ」

「お前が喧嘩売るからだろーが」

双方が不穏な空気を放ち始めたその時。意外な闖入者がその場を収めた。

「二人とも何をしとるんじゃ?」

「……じいちゃん」

「ゼノさん!」

イルミは邪魔が入ったと言うように、ルーシャは助けが来たと言うようにそこに立っている人物の名を呼んだ。
一日一殺、となんとも物騒な字が書かれた服を纏って現れたのはこの家の当主の父、ゼノだった。彼は二人のピリピリした雰囲気に気付くと、「まーたお主ら喧嘩しとるのか」と呆れぎみに呟いた。

「止めんか二人とも。大人気ないのう」

「じいちゃんには関係ないでしょ」

「まぁ確かにそうじゃが……。それはそうとルーシャよ、キキョウさんが探していたようじゃぞ?」

「あ、そうなんですか?分かりました直ぐに行ってみますー」

そう言ったルーシャはタイミングが良いとばかりに愛想笑いを浮かべ、そそくさとその場から離れていった。後に残ったイルミとゼノは遠ざかっていくその背中をじっと見つめる。
何となく沈黙が流れた。

「…………」

「…………」

「…………じいちゃん」

「なんじゃ?」

「アイツ殺したい」

「止めんかい物騒な」

「暗殺者が何いってんだか」

「あやつはウチの花嫁候補だと前にキキョウさんが言っておったし、シルバも一目置いてるようじゃし、それは無理な話じゃろうて」

「花嫁って何。一番ルーシャに似合わない言葉だね」

「…………否定はせん。あやつ黙ってれば絵になるんじゃが……口調は乱暴じゃし、行動も一々ガサツでしかも面倒くさがりときた。お祖父ちゃんの身にしてみればもう少しお行儀よくしてほしいところじゃな」

「お祖父ちゃんって何、もう嫁がせる気満々な訳?相手は誰、まさかキルじゃないよね」

「さあて……ワシが決めるわけじゃないしのう」

自分より弟のキルアを心配するところは流石イルミ、といった所である。祖父との話をそこで切り上げ、彼はさっさと踵を返して弟のいる独房へと再び入っていった。

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