2/3 「今度はこっちが質問。なんで私をここに呼び出したんだ?」 溜め息を一つつき、ルーシャは尋ねた。いきなりパーティーに来いと呼び出されて何の用なのか、少しは説明するのが道理だろう。しかし彼女自身、大体の想像はついていたのだが。 「仕事だ。少し手伝ってほしくてな」 「はぁー……だろうと思った。前から思ってたんだけどさ、なんで私がわざわざあんたらの暗殺か―――んむ!」 「デカい声で話すな、誰かに聞かれたらどうする」 「―――っ触んな!!」 口に押し当てられた手をばしん、と弾き返して肩で息をする。彼女の男性恐怖症を思い出したシルバはすまん、と力なく謝罪の言葉を述べた。 息を整えるのに数秒ほど要し、落ち着いたルーシャは言葉を続けた。 「……そんで?これで何回目だよ、お前の仕事に付き合わされるの」 実は、ルーシャは今までも度々こうして彼らの暗殺家業に付き合わされていた。彼女自身シルバに色々と恩があったため、借りを返すというような形で警護や見張り程度の手伝いをしているのだ。しかし家族でもない彼女にゾルディック家が何故そのようなことを頼んでいるのかというと、 「キキョウがな……ゾルディック家の嫁候補には仕事の予習も大切なんだと聞かなくてな」 「あのさ、何年間言わせる気だよ。私はゾル家に嫁ぐ気はないって」 謂わば花嫁修行。 こんな物騒な花嫁修行があったものか、と普通なら思う所だがそれはそれ、代々続く有名な暗殺一家ゾルディック家のやることである。具体的に言えば当主の嫁であるキキョウが率先してやっているのだが。 「まあ、それはともかくオレは仕事の手が増えると助かるんだがな」 「シルバさん、ちゃんとキキョウさんに言ってるのか?私が嫁ぐ気ないこと」 「ああ、一応な」 「“一応”ってところが物凄く怪しいな。だいたい思うんだけど、なんかシルバさんって妻の尻に敷かれてないか?」 「っ……!!、……!」 「……あ、ごめん聞かなかったことにして(やば、なんか地雷踏んだ)」 何かを言いたげに口を動かし、その後表情に影が差したのを感じたルーシャは僅かに目を反らした。恐らく図星なのだろう。 そうなんだ……ホントに父親ってのは辛いもんで……などとぶつぶつ呟き始めたシルバ。長い愚痴が続きそうな予感がしたルーシャはさっさと今日の仕事を終わらせるために話を切り出した。 「それで?今日の標的は?」 「子供たちも最近冷たいし……あ、ああ仕事だったな、すまん」 「…………(苦労してんだな)」 「標的はアイツだ」 シルバは目線だけで標的の位置を示した。周りに気づかれることのないよう、極自然な動作でルーシャはその先を追う。 そこにいたのはタキシードに身を包んだ20代後半とおぼしき優男。人の良さそうな笑みでパーティー会場の人間と親しげに言葉を交わすところを見ると、どうやらそれぞれの人に挨拶をして回っているらしいことが分かった。 「パーティー主催者じゃん」 「依頼人は“悪魔”だとか罵っていたがな」 「へー、人の良さそうな顔の裏で結構ヤバいことやってんのかな」 「それはともかく、ヤツの周りには気づいたか」 「ああ、ざっと20か?念能力者がきっちり固めてるな。あそこまで警戒してるとこ見ると、相当良く狙われるんだろうな。あの人本当に何したんだ?」 気配を薄めてはいるが、二人には見えていた。 主催者の周りを一定間隔で囲む険しい表情の男たち。全員念能力者のようだが、僅かな気配の中に見える鋭さが、その者たちが明らかに堅気でないことを語っていた。 「周りのヤツらはオレがやる。お前は標的を頼む」 「私はあくまで手伝いだろ?」 「注意を引き付けてくれるだけでいい。護衛を始末したら直ぐに向かう。どうせお前は片腕が使えないのだろうし、万が一標的に逃げられると困るから念のため、だ」 「…………はいはい、分かりましたよっと」 それだけ言ってルーシャはつかつかとシルバから離れていった。目指すは標的のパーティー主催者。 [前] | [次] 戻る |