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イルミは、利己的な男だ。
今のところ、ルーシャは彼のことをそう思っていた。
まあ、一言でそう言ってしまえば自分とて大して変わらないのだが、イルミのそれは何というか……子供のような独占欲の塊と形容するほうが的確かもしれない。

例えるならそれは、依存。

人間は何かに執着していると、その対象に対して過剰な感情を抱く。イルミの場合は対象が弟であるキルア。そして抱く感情は愛だった。
ゾルディック家の跡取りだから、とかキルアが人一倍才能があるから、とか理由はいくらでも予想がついた。しかし未だにルーシャはイルミがどうしてそこまでキルアに固執するのか分からない。

元々表情が乏しいということもあり、彼の心は全くもって理解出来なかった。ただ一つ分かるのはキルアの事を異常な程までに兄として愛している、というそれだけ。

しかしその過剰で自分勝手な愛が、ルーシャは嫌いだった。
ルーシャは思う。イルミはただ、自分の思う通りの人形がほしいだけではないか、と。“オレの大切な、オレの思い通りに育つ殺人機械”が欲しいだけ。

それは、愛と呼ぶには余りに歪んだ感情だ。

「お前は人というものを殺せるか殺せないかでしか判断できない」「お前は根っからの人殺しだから」「殺し屋に友達なんていらない」「お前に友達をつくる資格はない、その必要もない」

まるでお前は自分のモノだということをいい聞かせるような物言いに、ルーシャは苛立ちを募らせた。

イルミは自分の弟を取られたことに。
ルーシャはキルアに対するイルミの異常な執着に。

この二人はお互い自他共に認める犬猿の仲なのだった。

そんな思考の間に試合は終わった。
結果はイルミの勝ち。
キルアが自ら負けを認めたことによる勝利だった。

気に入らない。

そんな強い感情を心の内に燻らせる中、茫然自失となったキルアが帰ってくる。
あの偏愛を一心に受け徐々に歪んでいく彼を見ていられなかった。ルーシャにしては本当に珍しく、キルアに同情したのだと思う。

だから、第七試合の始まる瞬間飛び出したキルアを腕一本犠牲にしてまで止めたのは、彼を救いたいなどという陳腐な感情を持ってしまったからだったのだろう。

「目、覚めたか?」

「……あ、」

(私も、イルミのこと言えねェな……結局これだってエゴな訳だし)

刺さっていたキルアの爪を左腕から引き抜き、それだけ言ったルーシャは苦笑を浮かべて会場を後にしたのだった。

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