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体制を立て直したハンゾーは再び目の前の相手に飛びかかった。拳と蹴りのラッシュを平然と、しかし最小限の動きでルーシャは交わしていく。20発ほど打ち込んだ所でハンゾーは一度離れ、スピードで目を眩ませて再び攻撃した。
彼女はそれも難なく避け、そのままハンゾーを受け流し後ろへ回る。

「がっ!!」

軽くかわした後の、衝撃。
ハンゾーの背中が軋む。手足を最大限に使って彼は受身を取った。

「なるほど……。言うだけあるな」

(うん、中々良い反応)

双方共に笑った。ハンゾーは緊張で、ルーシャは楽しさで。
二人の雰囲気の差に会場は困惑に包まれる。あれだけ強さを見せつけていたハンゾーが押されている事実に、受験生たちは驚きを隠せなかった。
再びかち合う両者。
飛び交う拳は残像となりいくつも腕が生えているような錯覚すら起こす。そんな激しいやりとりの中でも、ルーシャは笑顔だった。

「ははっ、」

「っ……の!!」

ハンゾーの蹴りがルーシャの頬スレスレを通る。風圧で彼女の髪がぶわりと舞い上がった。

「おー怖っ。女の子の顔を狙うなよ」

「誰が女だ誰が!そういうなら少しはしおらしくしやがれ!」

「やなこった。どっちにしろ容赦しないくせに」

ひたすら攻撃を避け続けながら溜め息をついたルーシャ。会話だけを聞けば四次試験の時となんら変わりないやりとりなのだが、状況は正反対だ。

「心配は……しなくてよさそうだな」

「しかし予想以上だ、ここまでとは」

はは、とひきつった笑みを浮かべたレオリオと感嘆に溜め息を吐いたクラピカ。横で黙っていたキルアが、その二人の反応にまた違う意味で溜め息を吐いた。

「だからいったじゃん、ルー姉だから大丈夫だって。それより……」

「何だ?」

「ルー姉、全然本気出してねー。本当に遊んでるだけじゃん。あーあつまんねー」

早く終わらせろよ、と口を尖らせるキルア。彼にも周りから畏怖の視線が向けられた。

「おっと、危ねッ」

「チッ……!」

その間にも攻防戦は続く。
今はハンゾーの攻撃をひたすらルーシャが避け続けている状態だ。彼のスピードは、試合開始直後より格段に上がっていた。それに合わせる形でルーシャも動いていく。

「すげーすげー!早いじゃんハゲゾー!」

「うるせェ!だいたい普通戦闘最中にべらべら喋るもんじゃねーだろうが!!」

「第一試合で喋りすぎてゴンに反撃くらったの誰だったっけ、な!」

勢いよく繰り出された蹴りをひらりとかわし、その足の上にいとも簡単に降り立つ。足元にあるハンゾーの側頭部を蹴り飛ばした。
ルーシャの蹴りをまともにくらい膝をついたハンゾーだったが、足元をふらつかせながらまたしても立ち上がる。その頑丈さにルーシャは多少驚きを見せた。
心臓と並び、頭部には様々な生命機能が集約している、謂わば人間の核と呼ぶべき器官である。そこへ直接衝撃を加えれば、普通はただではすまない。
しかしハンゾーは立ち上がった。脳を揺さぶられ、視界が霞んでも彼は倒れなかった。

「へえ……まだ立てるか。凄いなお前」

「舐めてもらっちゃ困るな。オレは上忍忍者のハンゾーだぜ?」

ふうん、とルーシャは口角を上げた。

「本当に最初に当たったのがお前で良かった。大当たりだ」

「失礼な言い方するんじゃ、ねェっ!!」

同時に走るハンゾー。フェイントを絡め、動きを惑わせながら突っ込んでくる。ルーシャも構えてそれを待ったが。

「――――っ!?」


ぞわり。

全身の毛が逆立つような殺気。あまりの気迫にルーシャの表情から笑顔が消える。体が硬直し、動きが止まった。ハンゾーからではない。
誰だ?

答えは直ぐに分かった。
殺気の発信源は受験生たちの中、壁際にもたれ掛かりながら恍惚とした表情でルーシャを見る――――ヒソカ。

「ぅぐっ!?」

直後、ルーシャの腹部に強い衝撃が襲う。
気づけばめり込んでいたハンゾーの拳は、細いルーシャの体を安々と突き上げていた。

「ゲホッ、ゲホッ!!…かはっ、……」

腹を押さえて膝をつく。油断していたせいで急所に入ったらしい。
思いがけない一撃を入れたことで、ハンゾーを含めた会場内の人間は驚きに目を見開いた。
だがそこで間抜けに突っ立っているほどハンゾーもお人好しではない。一瞬硬直はしたが、入ったと分かると一気に追撃を開始した。先程のように全ては避けきれず、ルーシャは何発かダメージをくらう。とっさに左手もガードに使い、更に痛みは増した。

「ぃ……っ!」

「今舐めるなってオレ言ったよな?何よそ見してやがんだ!!あ゛!?」

「……悪い、ちょっと邪魔入った」

「あ?」

「分かった、真面目にやります」



□□□□



「……分かった。お前がオレより強いのはよく分かった。もういいまいった」

「えー?まだ動き足りないんだけど。もうちょいやろうぜー」

「オレの頭を握りつぶさん限りの力で掴んでるヤツが言うか……あだだだァッ!!」

地面にうつ伏せに倒れ、上から押さえつけられながらハンゾーは悲鳴まじりの声を漏らす。ルーシャの手は彼の頭を掴んでおり、相当力が加えられているのかミシミシと音が聞こえていた。

「勝者、受験番号100番、ルーシャ!!」

審判の声に渋々手を離してルーシャは観戦していた受験生たちの元へと帰った。物足りなさげに溜め息を吐いた彼女に「ルー姉お疲れ」とキルアが声をかけるが、それ以外の周りの人物は心なしか遠巻きに彼らを見ていた。

「そんなに戦いたいなら試験が終わったらボクとヤるかい?」

「いや遠慮しとく気持ち悪いし。……というかヒソカ、お前四次試験も今も余計なことばっかしやがって、」

殺されたいのか?
そう呟きルーシャはヒソカを睨み付けた。一方ヒソカの方は逆に嬉しそうに身をよじりながら笑う。良く言えば妖しい、悪く言えば気持ち悪い笑みを浮かべた彼に、素早く目を反らしたルーシャだった。

(しまったコイツには逆効果か……!)

(うーん、いいオーラ◇本当に美味しそうだ◆)

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