6/6 あ、私試験落ちた。 試験官の言葉を理解した瞬間頭に浮かんだ言葉。 だって、普通助けるはずない。私を助けてもデメリットしかない。 ゴンたちはガラス張りの向こうで口論していて、明らかに雰囲気は悪い。えーと……確かトンパだったっけか、そいつがかなり四人をかき乱してるように見える。レオリオなんかもうマジギレ寸前だ。 トンパと真っ向から睨みあってるところ、たぶん私を助けようとしてくれてるんだろうけど……なんでよりによってこのメンバー。溜め息が思わず口から漏れた。 全く面識がない奴だったら口八丁手八丁でなんとか交渉して脱出するんだけど、コイツらキルアと仲良くしてるみたいだしなあ……ちょっとやりづらい。 『……私は、どちらであれ自分の身を最優先に考えたい』 あれ、スピーカー繋がった? 向こうの声が突如鮮明に聞こえてきて私は首を傾げた。試験官がわざと繋いだのだろうか。 考えている間に向こうの話も進んでいく。やはり私を助けるかどうかで相当悩んでいるらしく、一人非協力的なトンパが今にもレオリオに殴り飛ばされそうな勢いだった。 『何蚊帳の外みたいな面してやがんだ!一人目は間違いなくお前だぜ、トンパ』 『じゃあもう一人はどうするんだ?』 『それは……』 そう言ったレオリオは、視線をさ迷わせて口を閉ざす。他の三人も黙ってるし、なんとも気まずい空気。もう見てられない。借りを作るのも嫌だし……仕方ないか、落とし穴に落ちた時点で。 元々自業自得だというのもあり、私はここら辺で釘を差す。きっと私が背中を押せば、さっさと進んでくれるだろう。 「もうしょうがないって。私がドジったんだから、お前らに尻拭いさせるのもなんかヤだし。それに試験はまた来年挑戦すればいいだけだからな。気にせず先に――――」 『やだ!!!』 突然響き渡ったその声はガラス越しにも聞こえてきて、私の鼓膜と部屋全体を音の振動で震わせた。 発信源は、ゴン。 『ルーシャを助けて、絶対全員で合格するんだ!!』 そう言ったゴンの表情は、いつもより険しい。何を言っても頑として譲らない、そんな顔だ。 それでも、とりあえず私はやんわりとした口調でそれに反論した。 「でも、私を助ければそっちは代わりに誰か二人が残らなきゃいけない。人数で言えば私が残った方がいいだろ?」 『そういう問題じゃない!オレは!全員でこの三次試験、合格したいんだ!!』 「…………」 『だから、全員でここを脱出する方法を考えよう!!』 ゴンは私のことを何だと思ってるんだ。仲間?友達? どっちにしたって私を好意的に捉えているのは間違いないと思う。ゴンのことだ、建前とか本音とか関係なく、本当に私を助けたいんだろう。 純粋…………そして、余りにも幼すぎる。 こいつは究極の二択なんてものを迫られるとごねてごねてごね続け、結局自分のしたいように物事を動かすタイプの奴だ。 だけど、その力もない非力なガキが喚いた所でそれは只のワガママ。 一緒に出る方法を考える、だって?たった今試験官が提示した条件をきく限り、突破する方法はひとつだけ、あるにはある。でもその為にはーーーー。 「全員で、なあ……。方法はないわけでもないぞ」 『ホントに!?』 『マジかよルーシャ!!何だその方法って!!』 「すっごく簡単。まずは誰か二人、そこの枷に繋ぎましょう」 『……は?』 「そんでここを開けてくれたら、私がその枷を外します」 『それは、どうやって?何か方法があるというのか?』 「それはそっちに言って確かめないと分かりません。どうする?」 さて、どうなる。意地悪いけど、方法はこれしかない。私のことをコイツらは一体どれだけ信じるんだろうか。ちょっとした好奇心と興味本意もあってわざとらしくお茶らけてみると、一気に場の空気が変わった。 といっても、悪い方向に。 『しかし、もし枷を外すことが不可能だったなら、』 『繋がれた奴は不合格じゃねぇか……』 クラピカとレオリオの表情は曇る。 まあ、そうだよな。 確信を持てないと明言してる以上、迂闊に他人を信じることは危険だ。特にかかっているものが重大なものほど、動くのは慎重になった方がいい。よっぽど私を信用してなければ、そんなことは無理ーーーー 『はい、枷嵌めたよ!次はどうすればいい?』 『は、』『え、』『ゴン……』 「はあああああぁぁぁぁぁ!!!?」 ここまで大声を上げたのは久しぶりかもしれない。 □□□□ トリックタワー一階。 三次試験を通過した受験生は、最初に地下道に集まった人数からかなりその数を減らしていた。広いタワーの空間にちらほらと散らばる彼らは、間近に迫った制限時間を確認し、すべての準備を終えて立ち上がる。 終了まであと30秒に迫った頃。 「よかったー!全員で三次試験、通過できたね!」 「ほんとゴンって馬鹿だよなー」 「む、言ったなキルア!」 場違いな明るい話し声と共に、新たに試験を通過した受験生が降りてくる。その見慣れた気配を感じ、壁際に凭れて試験終了を待っていたヒソカは小さく口元に弧を描いた。 「お前……本当なんなの……」 妙に憔悴しきったルーシャが最後に姿を表したところで、石の扉は閉まった。 「もし私が枷を外せなかったらどうするつもりだったんだ!?」 「でもちゃんと外せたじゃない!」 「いやそれはそうだけど……そうじゃなくても私が裏切ってお前らを見捨てていくとか、」 「ルーシャはそんなことしないでしょ?」 純粋な視線を向けられ、ルーシャは小さく呻いた。気まずそうに目を泳がせる彼女を周りの仲間は微笑ましい表情で見ている。 「コイツぁ人を疑うってことを知らねーんだよな。周りの人間全員信用しきってやがる」 「そうとも言えないぞレオリオ。ゴンは見ているところはしっかり見ている」 「野生の勘で、か」 「野生の勘で、だ」 「ただ馬鹿なだけだってー」 「なにさ!キルアに言われたくないもんね!」 「オレとお前じゃ全然違うってーの!」 「………………」 目の前で繰り広げられる和やかな会話に、思いきり顔をしかめたルーシャ。しかしそこにあるのは嫌悪感ではなく、自分自身への戸惑い。 慣れない暖かさがじんわりと染み込んでいく感覚を、心地よいと思いながらも彼女は受け入れられなかった。 「とりあえずゴンはとてつもなく能天気な馬鹿ってことか」 「あ、ルーシャまで酷い!」 そう言っておどけた笑顔は、いつものような完璧な愛想笑いではなくなっていた。 ※おまけ 「まあ諦めな。ゴンは言っても聞かねえ奴だ」 「お前に言われるとは思わなかったな、トンパ」 「……お前さん、なんだかオレを馬鹿にしてねェか」 「あ、気づいたんだ」 「て、テメー……!」 「分かりやすくていいなーお前。おもしれー」 (コイツ……せっかくオレ様が珍しく、ホンッットに珍しく人を励ましてやろうと思ったところを!!!) (やっぱこういう奴の方が調子でるわー) [前] | [次] 戻る |