5/6 『ならば100番の代わりにそこの手枷に二人繋いで○を押せ。そうすれば100番は助かる。しかしコイツを見捨てて行くなら、全員で×を押せ。どうするかは、君たち次第だ』 その場に沈黙が降りた。 誰一人動かない広い部屋の中、試験官の声がやけに反響したような気さえしてくる。お互いを窺うような視線の探り合いはなかったが、トンパを除いた全員が困惑の表情を隠せなかった。 そんな中、最初に一言口を開いたのはゴン。 「ルーシャを助けよう」 「おい、正気か?その為にはこの中で誰か二人が犠牲にならなきゃ行けねェんだぞ?誰が残るんだ?」 そのトンパの声に再び沈黙する四人。 一受験生としては試験に合格するため、ここで人のために身代わりに残る訳にはいかない。それは至極最もなことだ。 だがだからといってルーシャを置いていくのも、トンパはともかく他の四人は黙っていられない。 「オレは知らねェぜ。助けたいってんならアンタらで身代わりを決めな」 「テメー!その言い方はねェだろうが!!」 「よせレオリオ。また争いで時間を削るつもりか?確かに言い方は悪いが……ここまできて試験に落ちたくないのは全員同じ」 クラピカの声により、レオリオの勢いが一瞬衰える。その瞬間ここぞとばかりにトンパはまくし立てた。下卑た笑顔は人を陥れることの楽しさに醜く歪んでいる。 だがその口から出る言葉は、間違いなく今の四人の本音だった。 「自分と他人を秤にかければどちらが大切かくらい分かるだろ?助けた所でメリットなんてない、むしろデメリットの方が大きい。オレの判断は正しいはずだぜ?なぁ?」 「……私は、どちらであれ自分の身を最優先に考えたい」 クラピカは淡々とした口調で自分の意見を告げる。「お前……!」と直ぐにレオリオは彼に視線を向けたが、何かを言おうと開いた口は迷った末、結局何を告げるでもなく閉じられた。 「オレはやだ」 「キルア……」 「ルー姉いないとオレが困る」 「ああ、お前ら確か前から付き合いがあったんだったな。そりゃあ残していきたくないわけだ」 トンパがにやりと笑みを深くしながらそう言う。 「だから何だよ」 「いいや、別に?さて、誰が残るんだ?時間はどんどんなくなってくぜ」 「何蚊帳の外みたいな面してやがんだ!一人目は間違いなくお前だぜ、トンパ」 50時間以上、たまりにたまったストレスが今にも爆発しそうなのをレオリオは必死で抑える。トンパのせいで四人の和がかき乱されてきた回数は数えきれない。 「じゃあもう一人はどうするんだ?」 「それは……」 しかしトンパのその一言でレオリオの勢いは一気に衰える。 目を泳がせる彼の様子にトンパがほくそ笑んだ時、突然部屋中に響く電子音声が流れてきた。 『もういいって』 ガラスの壁越しにそう水を差したのは、今まさに話題の中心となっているルーシャ。 よく見ると向こうにも同じ様にスピーカーが備え付けられている。いつ電源が入ったのかは知らないが、どうやら今までの会話は全て聞こえていたらしい。 溜め息を吐くように肩をすくめ、面倒くさそうな表情の彼女は檻の中で胡座をかきながらすんなりと合格を諦めることを口にした。 『もうしょうがないって。私がドジったんだから、お前らに尻拭いさせるのもなんかヤだし。それに試験はまた来年挑戦すればいいだけだからな。気にせず先に――――』 「やだ!!!」 壁に立て掛けてある剣や斧がビリビリと揺れる。ルーシャ含め皆が言葉を失った。 その発信源は、今まで一言も声を発することがなかったゴン。その大声に、表情に、驚いた四人は彼を見つめた。 「ルーシャを助けて、絶対全員で合格するんだ!!」 『……でも、私を助ければそっちは代わりに誰か二人が残らなきゃいけない。人数で考えれば私が残った方がいいだろ?』 「そういう問題じゃない!オレは!全員でこの三次試験、合格したいんだ!!」 『…………』 仲間を助ける。誰か一人が欠けて合格だなんて嫌だ。 そう訴えかけてくる彼の揺るぎない信念は、梃子でも動かないであろうことが、共にトリックタワーを攻略してきた四人には、経験上すぐに分かった。 「だから、全員でここを脱出する方法を考えよう!!」 [前] | [次] 戻る |