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「……突然、何するんだい◆」

「お前がな!!」

ルーシャは即座に言い返す。
ヒソカに抱きしめられた直後、彼女は拘束されたまま自分ごと壁へ体当たりをかました。受け身を取れなかったヒソカはそのまま巻き込まれ、固い壁に体を打ち付ける。
その隙に俊敏な動きでルーシャは反対側の部屋の壁に背中をつけてぺたんと座り込んだ。しかし床に張り付いた足は、これ以上動く気配はない。
一方、先程と変わらず薄ら笑いを浮かべたままゆっくりと立ち上がったヒソカは、再びこちらへ近づいてきた。逃げ出すことが出来ないルーシャは殺気のこもった視線で彼を睨み付ける。

「ボクは何もしてないよ?キミから飛び込んできたんじゃないか◇」

「知るか死ね」

「おや、怖い怖い◆」

それほどダメージを受けなかったらしい。平然とした様子でヒソカは歩を進める。ち、と舌打ちをしつつもルーシャの体は依然として動かない。

「そんなに怖がらなくてもいいじゃないか◇震えてるよ?」

「近づくな変態!!」

その声を綺麗に聞き流したヒソカは腰を下ろし、先程のように彼女に近づく。ゆっくりと手を伸ばした彼はにやりと口角を吊り上げて笑い、指先でルーシャの頬に触れた。

「ルー姉!?」

その時二人の間に響いた新たな声。同時に一斉に四人の人間が脱衣室に雪崩れ込む。見えた顔はゴン、キルア、クラピカ、レオリオのいつもの四人。

「わわっ……ごめんなさい!」

勢い良く入ってきておいて、今更ゴンはルーシャから目を背けた。

「…………。」

対してレオリオは彼女をまじまじと見つめ、鼻血を垂らしている。

ごつん。

思いきりクラピカに殴られて気を失ったが。

「ヒソカ……」

キルアが敵意の視線を向けながら呟いた。
今の状況を見れば誰であろうと彼がルーシャに乱暴を働こうとしているようにしか見えない。もう、と小さく呟き手立ち上がったヒソカは四人を一瞥し、それから座り込む彼女に向き直った。

「……邪魔が入っちゃったからもういいや◇じゃあねルーシャ◆また後で」

「貴様ぁっ……!!!地獄へ落ちろ!!」

凄まじくドスのきいた声で殺気を放ちながらルーシャは中指を立てた。念を封じられていなければオーラだけで人を殺しかねない勢いである。因みに「なんかキャラ変わってね?」と呟くキルアの声に反応する人は誰もいなかった。

「恐い恐い◇ククク……◆」

その殺気を受けながらヒソカは一層不気味な笑みを浮かべ、彼女から離れた。入口に群がる四人に失礼◇と声をかけ、ある種優雅にさえ感じられる足取りで彼は部屋を後にする。

「…………」

騒動の元凶が去り、重い沈黙が残された脱衣室。キルアは恐る恐る座り込む彼女に声をかけた。

「ルー姉……?大丈夫……?」

「ああ、大丈夫だ……悪いけど着替えるから一旦出ていってくれ」

「あ、ああ……」

そろそろと三人はレオリオを引きずりながら出ていく。シャワールームの扉を閉め、無言で廊下を歩く三人。気を失ったレオリオを引きずる音だけが響く中、角を曲がったところでゴンがぽつりと呟いた。

「今のって……もしかしてルーシャ?」

「遅ぇよ!!」



□□□□



「男嫌い!?」

「ああ、普通に話したりとかそういうのは大丈夫だから」

「そうか……良かった」

「でもルーシャの素顔にはちょっとびっくりしちゃった!予想とだいぶん違ったからさ」

「ああ、確かに」

「おい、ルー姉がもし聞いてたら殺されるぞ二人とも」

「よし、じゃあ今から早速死刑執行だな」

「……すまなかった」「ごめんなさい、ルーシャ」

二人の謝罪を受けつつ現れたルーシャはいつもの黒ずくめ姿だった。帽子も被り直しており、長い金髪も表情もはっきりと窺えない。

「失礼な奴らだな、全く」

「べ……別に貶してた訳じゃないんだけどな……」

「ふーん?まぁいいや、私もう寝るから」

「え?……そうなの?」

「疲れたんだろ、ヒソカに絡まれて」

そのとおり、と息を吐いた彼女は顔こそ見えなかったが纏う雰囲気に疲労感がありありと漂っていた。シャワーから上がった時の爽やかな表情は微塵も見られない。

「せっかく気分転換にシャワー浴びにいったのに……」

「ルー姉アイツに気に入られたっぽいしな……」

「失礼だが正直、同情するな……」

「ちょ、止めてくれキルアクラピカ私にその事実を認識させないで!」

「あ、悪ぃ」

「すまない……」

頭を抱えてそう言ったルーシャに、少し、いやかなりの憐憫を感じた三人。
これからのハンター試験、どうなることやら。
先を思いやられキルアが小さく吐いた溜め息は、誰に聞こえるでもなく静かに空中を漂っていた。

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