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「はー助かった。」

木々が生い茂る暗い獣道。
時折魔獣が襲いかかってくるため少々危険だが、ルーシャにとっては大した障害ではない。
あれからレオリオが勇敢にもヒソカに立ち向かうとは微塵も思っていなかった彼女は、一人すたこらと逃走していた。
もう既に先程の場所からは遠く離れている。ハンター協会の運営する建物まではまだしばらくあるが、頭の中で割り出した最短距離を辿っているため、恐らく二次試験には間に合うだろう。

彼らが完全にヒソカから逃げ切れるとは正直思っていない。しかし、もしレオリオやクラピカが捕まっているとしても、二人を助けるために動くつもりは彼女には毛頭なかった。

ルーシャは赤の他人を助けるほどお人好しではない。ましてや今日、ついさっき知り合った者たちのことなど、正直どうなろうと構わなかった。

(あの気持ち悪いピエロに近づくくらいならあいつらほったらかして逃げるわ、私は)

個人主義でマイペースな彼女は、一人でダラダラと自分勝手に行動することを好む。それに加えて、基本的に身内や友人以外の人間にはかなり無関心で、何をしようとどうでもいい、別に気にしない、そんな人間だった。
もしルーシャがこの時気まぐれでも彼らを助けようと動いていたなら、この後の展開が少しは変わったかもしれないのだが、それも後の祭り。

既に彼女の元には危機が迫っていた。

「…………!え?マジ?来てる!?」

後ろから物凄いスピードで追ってくる者の気配をルーシャは感じた。この異様な速さは、恐らくヒソカ。少し立ち止まって確認はしたが、間違いなくこちらへ向かってきている。
しかも、

「見ーつけた◆」

かなり近いところまで迫ってきていた。

「嘘だろぉぉぉぉぉ!!?」

悲鳴に近い叫び声を上げながら走り出す。ルーシャとヒソカの本気の鬼ごっこが始まった。



□□□□



「捕まえた◇」

「…………」

「…………」

「…………」

「………何か喋りなよ◆」

「なんでだ……」

結果。十秒もたたない内に、勝敗(?)は決まっていた。
走り出そうとしたとき、彼女の体が動かなかったのである。いや、動かない、というよりは何かに引っ張られている、といった方が正しかったかもしれない。
ともかくそれでルーシャの体は止まった。その一瞬で、ヒソカが追い付くには充分だったのだ。

「なんで………なんで……あ」

「気がついたかい?」

「……いや、全く。何もされてないのになんか引っ張られてんだけど、何だよこれ?」

(ここでボロを出してみろ、絶対にややこしいことになる!直感がそう言っている!!)

実際は腕に彼のオーラが張り付いているのがちらと見えたのだが、それに反応してしまうと自分が念能力者だと気づかれてしまう。

実は今、ルーシャは念が使えない。彼女の師匠なる人物が、「試験中は念を使わないように」と指に念封じの糸を結びつけられていたのである。
そんな状態で念使いだとバレても、ヒソカと応戦する力はない。
つまり今、ルーシャは命の危機にさらされていた。

「本当に見えないのかい?キミが一番良いオーラを発していたからもしかしてと思ったんだけれど……◇」

「何の話だよ……」

「まぁそれは後で確認するとして◆」

「っ!?」

「せっかくだから顔を良く見せておくれよ◇」

ヒソカの念がぐにゃりと動き、ルーシャは身構える。しかし張り付いているオーラのせいでバランスを崩し、いとも簡単に彼女は捕らえられてしまった。

「ちょ……ヤバイって顔だけは!!止めろ離して頼むから!!」

「それを聞いてますます素顔が気になったよ◇」

「畜生、外れろぉぉぉぉ!!!」

「はい、ご対面〜◆」

「あ……あぁあぁー……」

かなり必死に暴れたにも関わらずあっさり帽子をとられてしまった。
視界が開けてから、もうダメだと思ったルーシャは、失意と絶望の入り交じった悲愴な顔つきで目の前の彼と対面することになったのだった。

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